企業内スタートアップの報酬設計
企業内スタートアップの経営者が研究開発フェーズからグロース段階に移行する際に適切な報酬設計を設定することで企業の成長を加速させる事例があります。既存株主がいる状態で経営を始め、既存ステークホルダーの合意を得ながら株式を取得する例は稀ですが、一部事例として参考になるものを紹介します。
テスラ/イーロンマスクの例
Tesla Inc創業者でCEOのイーロンマスクは役員報酬をカリフォルニア州の最低水準(約4万ドル)に設定しつつ、その受け取りも拒否し続けています。代わりに2012年に20の業績目標を設定し、それに対する業績連動報酬を株式で設定しました。2017年には20の目標のうち12を達成した報酬として株式を取得しています。また、2018年には同様の業績連動報酬目標を設定し、株主の承認を得ています。
検討のポイント
株式と経営陣のモチベーション
企業内ベンチャーとして創業するのには大きな労力と時間がかかります。事業が軌道に乗ってきた際に報酬設計がうまくいっていないと、その後のモチベーションの問題に差し掛かってしまいます。
株主の所有権と利益についての配慮
企業内スタートアップにおいて創業者は大きな犠牲を投じています。給与が他の社員と横並びであることも多いあり、また評価も他部門よりも低いということも多いにあるでしょう。しかし一方で会社のそもそもの成り立ちである、資本と経営の分離という問題を認識する必要があります。
本来的な資本と経営の分離
本来的には資本を投じた主体が資本を回収するというのが会社の成り立ちであり、経営者は与えられた報酬条件の中で善管注意義務を守りながら株主の利益を最大化しつつ、条件が合わなければ退任するという自由が与えられています。
スタートアップにおける株主との交渉
経営者は基本的に雇用されているのではなく、株主の信任の元、株主と対等な権利を持ちながら(双方お互いに解任、退任の権利を持つ)で業務を遂行する主体であります。そのような経営者が株式を取得するためには、既存株主にもより大きな利益をもたらすというコミットメントが必要となります。
経営者が株主に提示すべきメリット
本来株主は経営者に対して株式で報酬を渡す義務はありません。しかし、経営者が業務を遂行する上で自分自身適切な報酬設計を設定することにより、株主および経営者がどちらも共有の利益を享受するという目標設定をすることにより、経営の舵取りを適切にできるという想定を持ち、それを仮説検証する仕組みがストックオプションや経営陣の株式購入です。したがって、基本的に経営陣は株主に対して以下のメリットを提示する必要があります。
業績目標
他社が達成できないような業績目標を設定。時価総額、売上、粗利益、営業利益、経常利益、純利益、パートナー数、ユーザ数などの目標数値と3段階〜12段階の支払い期限設定
事業計画
高い業績目標がなぜ実現できるのか?という点に対しての合理的な事業設計と成長設計。事業を推進する上で証明されている命題と、今後証明すべき仮説と検証プロセスについての説明。
株主利益
提示した業績目標と事業計画を推進することにより、今後数十年間投資資金を投じ続けてもよいと合理的に判断できるよう、株主の中長期的な利益の説明