ツェルメロ=フレンケル集合論|Zermelo–Fraenkel set theory with the Axiom of Choice(ZFC)

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ツェルメロ=フレンケル集合論|Zermelo–Fraenkel set theory with the Axiom of Choice(ZFC)

Zermelo–Fraenkel set theory with the Axiom of Choice(ZFC)とは、現代数学の基礎をなす集合論の標準的な公理体系のことです。数学のあらゆる対象(数、関数、空間など)を「集合」として定式化できるように設計されています。

■ 構成要素

ZFCは、以下の二つの要素から成り立ちます:

  1. Zermelo–Fraenkel set theory (ZF)
    → ゼルメロとフレンケルによって定式化された9個の公理(あるいはスキーム)からなる集合論。
  2. Axiom of Choice (AC, 選択公理)
    → 無限集合から要素を選ぶ操作が常に可能であるという追加公理。

■ 公理(ZFの中核)【ざっくり説明】

  1. 外延性公理(Extensionality)
     集合はその要素がすべて一致するなら等しい。
  2. 空集合の存在(Empty Set)
     何の要素も持たない集合が存在する。
  3. 対の公理(Pairing)
     任意の2つの集合a, bに対して、{a, b}という集合が存在する。
  4. 和集合の公理(Union)
     集合Aのすべての要素の要素を集めた集合が存在する。
  5. 冪集合公理(Power Set)
     ある集合のすべての部分集合からなる集合が存在する。
  6. 置換公理スキーム(Replacement)
     関数的な操作で得られる集合も集合である。
  7. 無限公理(Infinity)
     自然数全体の集合のような無限集合の存在を保証。
  8. 分出公理スキーム(分離公理)(Separation)
     ある性質を満たす元だけを集めた部分集合が存在する。
  9. 正則性公理(基礎公理)(Foundation)
     どんな集合も、無限に自己を含むような入れ子構造になっていない。

■ 選択公理(Axiom of Choice: AC)

「任意の非空集合の族から、それぞれ1つずつ代表元を選び出す関数が存在する」とする公理。直観的には当たり前に思えるが、ZFの他の公理からは導けず、ZFに追加することでZFCとする

選択公理は以下と同値です:

  • 任意の集合は整列順序付けができる(整列定理)
  • 任意の集合の族の直積は空でない(積集合定理)

✅ ゼルメロが選択公理を発明した経緯

📌 年:1904年

📜 論文タイトル:

“Beweis, dass jede Menge wohlgeordnet werden kann”(「任意の集合は整列可能であることの証明」)

この論文の中でゼルメロは、**整列定理(well-ordering theorem)を証明するために、「任意の非空集合族から要素を1つずつ選び出す」操作を仮定しました。
これがまさに現在で言う
選択公理(AC)**です。

📘 重要なポイント

  • ゼルメロ以前にも、暗黙のうちに「選ぶ」操作は使われていましたが、それを公理として明示的に導入したのはゼルメロが初
  • ゼルメロはこの操作を用いることに数学的な批判が出ることも想定しており、同論文で「これは論理的に正当な手続きである」と強調しています。
  • その後、彼は1908年に集合論全体を公理化し、選択公理を正式な公理の一つとして組み込みました(これがZermelo公理系の起源)。

💬 ゼルメロ自身の認識

  • 彼は選択公理を単なる便利なテクニックではなく、集合論的構造を構成するために必要な前提だと認識していました。
  • しかし、当時の多くの数学者(特に構成主義者)は、選択公理が直感に反するとして批判しました。

■ なぜZFCが重要なのか?

ZFCは現在、数学全体の公理的基盤と見なされています。整数論、位相空間、解析、代数など、あらゆる分野の理論がZFCの枠組みで展開可能です。ZFC上で証明されたことは、厳密な論理的裏付けを持つとみなされます。

Zermelo–Fraenkel集合論(ZF)の成立には、20世紀初頭の集合論の危機とそれに対する公理化の試みという重要な歴史があります。以下にその背景とZFC誕生までの流れを時系列で解説します。

【1】背景:集合論の勃興とパラドックス(1870–1900年頃)

■ カントールの集合論(1870年代〜)

  • ゲオルク・カントールが無限集合の理論を構築(実数の濃度、対の関係、冪集合定理など)。
  • 集合という概念が急速に抽象数学の中心に。

■ 問題:ラッセルのパラドックス(1901年)

  • 「自分自身を含まない集合の集合」という定義が、自己言及によって矛盾を引き起こす
    • 記号で:R = {x | x ∉ x} に対して、R ∈ R ⇔ R ∉ R
  • カントールが用いた自由な集合の定義(何でも集合にできる)では、論理的に破綻すると判明。

【2】ゼルメロの公理化(1908年)

■ ゼルメロ(Ernst Zermelo)の功績

  • ラッセルのパラドックスなどの矛盾を避けるために、集合の取り扱いに制限をかけた公理系を提案。
  • 論文「Beweis, dass jede Menge wohlgeordnet werden kann(任意の集合は整列できる)」で有名。

■ ゼルメロの初期公理系(1908年版)

  • 基本的な公理(外延性、空集合、対、和集合、冪集合、分出、選択公理など)を提案。
  • ただし、「関数や操作によって集合を生成する方法」に関して弱かった。

【3】フレンケルとスコーレムによる拡張(1922年〜)

■ アブラハム・フレンケル(Abraham Fraenkel)とトール・スコーレム(Thoralf Skolem)

  • ゼルメロの公理では扱えない複雑な構成を扱うために、**「置換公理スキーム」**を導入。
  • これにより、関数的に定義された集合族も集合として扱えるようになった。

■ ZFの確立(1922年)

  • ゼルメロの公理 + 置換公理スキーム → **Zermelo–Fraenkel set theory(ZF)**が成立。
  • これでほとんどの「通常の数学」が展開可能に。

【4】選択公理(AC)の取り扱い

■ 選択公理の導入と論争

  • ゼルメロが1904年に使用(整列定理の証明)。
  • だがその直観的な意味に異議を唱える数学者も多く(特に構成主義者や直観主義者)、**「ZFC」と「ZF」**を区別して使うように。

【5】ZFCの定着(1930年以降)

  • ゲーデル(Kurt Gödel, 1938):ZFCが無矛盾であると仮定すれば、選択公理と連続体仮説はZFCと矛盾しない(相対的一貫性)。
  • コーエン(Paul Cohen, 1963):ZFCでは連続体仮説は独立であることを証明(力強い強制法の導入)。
  • こうした研究により、ZFCは数学の共通言語として定着

【まとめ:ZFC誕生の流れ】

時代出来事
1870年代カントールが集合論を創始
1901年ラッセルのパラドックスが発見される
1904年ゼルメロが選択公理を導入
1908年ゼルメロが最初の公理系を定式化
1922年フレンケルとスコーレムが置換公理を追加し、ZFが成立
1930年代〜ゲーデルとコーエンの独立性結果を通じてZFCが定着