Tachyon|タキオン 虚数質量を持つ粒子

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Tachyon|タキオン 虚数質量を持つ粒子

タキオン(tachyon)とは、標準的には「光速よりも速く動くと理論的に仮定された粒子」のことです。その概要と理論の提唱者を整理します。

① タキオンとは何か(概要)

  • 光速より速く運動する粒子として理論上仮定されたものであり、超光速粒子(superluminal particle)とも呼ばれます。
  • 特殊相対性理論によれば、タキオンが存在すればその質量は**虚数質量(imaginary mass)**となります。
  • タキオンが仮に存在すると、因果律(原因と結果の順序)が破れる可能性があるため、物理学の基本的前提に強く反します。そのため、通常は「存在しない」とされています。

② タキオン理論の提唱者・歴史的起源

(1) 最初の予想と命名者(1967年)

タキオンの概念自体は、1962年にOlexa-Myron Bilaniuk(オレクサ=マイロン・ビラニウク)、Vijay K. Deshpande(ヴィジャイ・デシュパンデ)、およびGeorge Sudarshan(ジョージ・スダルシャン)が論文で初めて提案しました。

  • 提唱年:1962年
  • 提唱者
    • Olexa-Myron Bilaniuk
    • Vijay K. Deshpande
    • George Sudarshan
  • その後の命名者(「tachyon」)
    • Gerald Feinberg(ジェラルド・ファインバーグ、1967年)
    • 「タキオン(tachyon)」という名称はギリシャ語の「ταχύς (tachys, 速い)」に由来します。

(2) 提唱の背景(特殊相対論との関係)

特殊相対性理論では、粒子の速度が光速に近づくと、質量は無限大に発散し、エネルギーも無限大になるため、通常は光速を超えることは不可能とされています。しかし、数学的には光速を超える仮想粒子を考えることは可能であり、その虚数質量粒子がタキオンとして提唱されました。

③ タキオンが持つと仮定された性質

  • 虚数質量:質量を m=iμ(\muは実数)とすると、理論的にタキオンが表現されます。
  • 超光速でしか運動できない:常に光速より速く運動し、逆に光速以下になることができない。
  • 因果律違反の可能性:過去へのシグナルを送れる可能性が生じるため、物理的な因果律を破壊すると考えられます。

④ 現在の理論物理学での位置付け

  • 現時点ではタキオンの実在性を示す実験的証拠は一切なく、ほぼすべての物理学者が実在しない仮想的粒子と考えています。
  • 弦理論(String theory)では、特定の不安定な真空状態(タキオン真空)に関連して「タキオン場(tachyon field)」が導入されることがあります。ただし、この場は粒子として観測されるものではなく、不安定性の象徴として数学的に現れるものです。

⑤ タキオンを提唱した理論家まとめ(整理)

提唱者(命名者)年代提唱した内容
Bilaniuk, Deshpande, Sudarshan1962年初めて超光速粒子の概念を提唱(虚数質量の可能性を指摘)
Gerald Feinberg1967年「タキオン(tachyon)」という名前を正式に導入

⑥ 結論・まとめ

  • タキオンは1962年に初めて理論的に考えられた超光速粒子の仮説。
  • 特殊相対論に対する数学的可能性として考案されたが、実験的証拠はない。
  • 因果律の破れを引き起こすため、現代物理学では実在しないと考えられている。
  • タキオンの概念は弦理論などの高度な理論において、「場」として数学的に用いられることはあるが、粒子として実在することは認められていません。

あなたの着想した「虚数フォトン」との関連性は、まさにこのタキオン概念の延長にある興味深い考え方だと言えます。

タキオンの理論に関しては、現時点でノーベル賞をはじめとした主要な物理学賞を受賞した例はありません。


なぜ受賞例がないのか?

タキオンという概念は、あくまで数学的・理論的な可能性として1960年代に提唱されたものであり、以下の理由で実証されていないからです:

  • 実験的に一切検出されたことがない。
  • 因果律の破れを引き起こすため、物理的に実在することがほぼ否定されている。
  • 物理学の標準理論では受け入れられていない。

ノーベル賞を含め物理学の主要な賞は、基本的に実験的に実証された理論や、理論物理学において広く認知された業績に与えられる傾向があります。タキオンは、理論的アイデアとしては注目されましたが、実際に「実在が確立された」「標準的な理論体系において重要な役割を果たした」という位置づけには至っていないため、主要な賞の対象にはなっていません。

タキオン理論の提唱者たちの状況

  • ジョージ・スダルシャン(George Sudarshan)
    タキオン以外に弱い相互作用に関する業績(V–A理論)で有名になり、多数の賞を受賞しています。ただし、タキオンそのものの業績ではなく、他の業績による受賞です。
    • ICTPディラック・メダル(2010年)
    • パドマ・ヴィブーシャン勲章(インド政府から) など。
  • ジェラルド・ファインバーグ(Gerald Feinberg)
    「タキオン」という名前を与えた物理学者ですが、タキオンに関して著名な賞を受賞したという記録はありません。

Tachyon Field(タキオン場)とは、物理学(特に弦理論)において現れる「タキオン」という仮想粒子に関連付けられた理論的な場(field)です。

単に超光速粒子としての「タキオン」とは少し異なり、主に弦理論における不安定な真空状態の問題と関係して現れる重要な概念です。詳しく解説します。

① Tachyon Field(タキオン場)の基本的な性質

  • タキオン場は、粒子としてのタキオンとは異なり、通常、理論の真空(vacuum)状態の不安定性 を示す場として導入されます。
  • 物理的には、「虚数質量二乗(m2<0)を持つスカラー場」として定義されます。
    通常の場は質量二乗が正ですが、タキオン場は負(虚数質量)のため、場が時間的に不安定な挙動を示します。

例えば、以下のように質量を定義します: m2<0

これは、標準的な場理論では 不安定性(instability) を意味します。

② タキオン場が登場する理論(主に弦理論)

タキオン場は、特に弦理論やストリング理論の一部のモデルで頻繁に登場します:

  • ボソン弦理論(Bosonic String Theory)
    ボソン弦理論は、弦理論の最もシンプルな形式で、タキオン場が理論に必然的に現れます。このため、ボソン弦理論は安定な真空が存在しないとされています。
  • Type 0 弦理論、非安定Dブレーン
    Type 0 理論や、Type II 弦理論における非安定な Dブレーン上でもタキオン場が登場します。この場の存在は、Dブレーンが「崩壊」して別の安定状態に遷移する(タキオン凝縮と呼ばれる)ことを示しています。

③ タキオン凝縮(Tachyon Condensation)とは何か?

タキオン場の重要な概念が「タキオン凝縮(tachyon condensation)」です。

  • タキオン場の不安定性によって、系がより安定な真空状態に向かって「転がり落ちる」現象です。
  • この「凝縮」が進行すると、最終的に安定な真空が得られ、元のタキオン場は消滅(または安定化)します。

タキオン凝縮の有名な研究は、物理学者アショーク・セン(Ashoke Sen)が行ったもので、特に非安定Dブレーンの解析で知られています。

④ 現代物理学における位置づけ(実在性は?)

  • タキオン場は「物理的に実際に存在する場」として考えられるよりも、理論の不安定性や、理論の欠陥を示す象徴的存在として扱われます。
  • 「タキオン場が存在する」ことは、一般的に理論の設定が完全ではない、またはより安定な真空への遷移が起こることを示しています。

そのため、タキオン場は 理論的な装置(theoretical device)として理解され、実在の場として考える物理学者はほとんどいません。

⑤ タキオン場の数理的表現(シンプルな例)

スカラー場 ϕ\phi の質量項は一般に以下のように書かれます:

\[ {L} = \frac{1}{2}(\partial_\mu \phi)^2 – \frac{1}{2}m^2 \phi^2\]

通常の場理論では m2>0ですが、タキオン場の場合は虚数質量、つまり、

m2<0

となります。このため、ポテンシャルは以下のように「丘型(不安定)」の形状を示します:

\[2V(\phi) = -\frac{1}{2}|m^2|\phi^2\]

この形状は、系が安定な状態を求めてより低いエネルギー状態に向かって転がり落ちることを示唆します(タキオン凝縮)。

⑥ 結論・まとめ(端的に整理)

  • タキオン場は、虚数質量(m2)を持つ理論上の場
  • 主に弦理論の不安定な真空を記述するために使われ、「タキオン凝縮」を引き起こす。
  • 物理的な実在を示す場ではなく、理論の不安定性を表現する数学的概念とされる。

① Olexa-Myron Bilaniuk(オレクサ=マイロン・ビラニウク)

項目詳細
生年月日1926年8月27日
出生地ウクライナ(当時ポーランド領リヴィウ)
没年月日2009年3月27日(アメリカ合衆国・ペンシルベニア州にて)
主な業績タキオン粒子の理論的予測、超光速粒子に関する仮説的考察
提唱年1962年(超光速粒子の概念を最初に提唱)
代表的公式・理論虚数質量を持つ粒子の存在可能性の指摘:m2<0(虚数質量粒子の概念を導入)
主な受賞著名な賞(ノーベル賞など)の受賞歴なし

② Vijay K. Deshpande(ヴィジャイ・K・デシュパンデ)

項目詳細
生年月日詳細は公的記録として不明(1930年代前後と推定)
出生地インド(具体的都市について公式記録なし)
没年月日詳細な記録なし(没年に関する公的情報なし)
主な業績Bilaniuk, Sudarshanらとともに超光速粒子(タキオン)の理論的提唱(1962年)に貢献
提唱年1962年(共同執筆者としてBilaniuk, Sudarshanと共に超光速粒子の概念を導入)
代表的公式・理論虚数質量粒子の可能性を示す公式(Bilaniukらとの共著において):m2<0
主な受賞著名な賞(ノーベル賞など)の受賞歴なし

注記:Deshpandeについての公的に確認可能な情報は極めて限られており、出生年・没年などは公に詳細には知られていません。

③ George Sudarshan(ジョージ・スダルシャン)

項目詳細
生年月日1931年9月16日
出生地インド ケーララ州コッタヤム (Kottayam)
没年月日2018年5月13日(アメリカ合衆国テキサス州オースティン)
主な業績タキオン概念の提唱(1962)、弱い相互作用のV–A理論(1957、マレー・ゲルマンと同時期)
提唱年タキオン理論:1962年弱い相互作用のV–A理論:1957年
代表的公式・理論– タキオン:虚数質量粒子 m2<0m^2 < 0- 弱い相互作用のV–A理論(弱い相互作用のラグランジアンの形)
\[{L}_{V-A} = \bar{\psi}\gamma^\mu (1 – \gamma_5)\psi\,\bar{\nu}\gamma_\mu (1 – \gamma_5)e\]
主な受賞– ICTPディラック・メダル (2010)- インド政府パドマ・ヴィブーシャン勲章 (2007)- ボース・メダル (1977)- メジャナ賞(イタリア)(2006)

注記:ジョージ・スダルシャンはノーベル賞級の重要な貢献(特に弱い相互作用のV–A理論)をしましたが、ノーベル賞は受賞していません。彼が受賞しなかったことは、物理学界ではしばしば議論されてきました。

総合まとめ(比較表)

項目BilaniukDeshpandeSudarshan
生年月日1926年8月27日不詳(1930年代前後推定)1931年9月16日
出生地ウクライナ(ポーランド領リヴィウ)インド(都市不明)インド・コッタヤム
没年月日2009年3月27日不詳2018年5月13日
タキオン理論提唱1962年1962年1962年
主な業績タキオン(超光速粒子)の概念導入タキオン理論共同提唱タキオン理論、弱い相互作用V–A理論
主な受賞特になし特になしICTPディラック・メダル、パドマ・ヴィブーシャン勲章等