ゲージ対称性|Gauge Symmetry

ゲージ理論(Gauge Theory)の成立には、歴史的に以下の流れと背景があります。
📌① ゲージ理論の起源(1918年〜)
- ヘルマン・ワイル(Hermann Weyl, 1885-1955) が1918年に初めて「ゲージ(gauge)」という概念を提案。
- 元々の意味は、「スケール(目盛り)」の自由な変更という考え方だった。
- ワイルは、一般相対論を拡張して電磁場を幾何学的に説明しようと試みたが、当時はうまくいかず物理的には受け入れられなかった。
当初のゲージ概念の本質
- 「局所的に尺度を変換する自由(local scale invariance)」として考えられた。
- ワイルの試みは失敗だったが、「ゲージ」という考え方だけは後に別の文脈で再活用されることになる。
📌② 量子力学・量子場理論への導入(1920-1940年代)
- ワイルのゲージ理論の概念は、量子力学の発展と共に再解釈される。
- 特に電磁場の理論(量子電磁力学:QED)において、ゲージ変換が重要であることが明確になる。
量子力学における再解釈(1927〜1929年頃)
- 電磁場のポテンシャルを、位相変換(波動関数の局所位相変換)と結びつけることが可能となった。
- ここで「ゲージ自由度」は「位相(フェーズ)の自由度」へと転換される。
📌②-補足:ヤン=ミルズ理論(1954年)
- チェン・ニン・ヤン(楊振寧, Chen-Ning Yang) と ロバート・ミルズ(Robert Mills) が1954年に発表。
- それまで電磁場に限定されていたゲージ理論の考え方を、電磁力以外の「非可換ゲージ理論」として一般化。
- SU(2)のゲージ理論を提唱(ただし当初は物理的意味が明確ではなかった)。
📌③ ゲージ理論の物理的意義の確立(1960〜70年代)
1960年代から1970年代にかけて、ゲージ理論の重要性が実験的にも理論的にも明確にされます。
- 1967年:電弱統一理論
- ワインバーグ(Steven Weinberg)、サラム(Abdus Salam)、グラショー(Sheldon Glashow)らにより、電磁相互作用と弱い相互作用を統合する ワインバーグ・サラム理論(電弱統一理論)が提唱される。
- SU(2) × U(1)のゲージ群を用いて記述。
- 1970年代:量子色力学(QCD)
- クォーク間の強い力を記述するためにSU(3)のゲージ理論が導入される。
- 物理的には量子色力学(Quantum Chromodynamics, QCD)として確立。
📌④ 幾何学との結びつき(Fiber Bundleによる幾何学的解釈)
- ゲージ理論を数学的に明確に位置づけるために、数学者と物理学者が協力して1970年代頃から ファイバー束(Fiber Bundle) を導入。
- 代表的な人物:
- マイケル・アティヤ(Michael Atiyah)
- シンガー(Isadore Singer)
- 数学的基盤が明確になり、ゲージ理論は現代物理の基礎理論へと昇華。
📌⑤ 現代物理におけるゲージ理論の重要性
- 標準模型(Standard Model):
- 素粒子物理学における基本相互作用はすべてゲージ理論で記述される。
- 電弱相互作用(SU(2)×U(1))+強い相互作用(SU(3))で構成される。
- 素粒子物理学における基本相互作用はすべてゲージ理論で記述される。
- 重力以外のすべての基本力はゲージ理論として統一的に理解されている。
📌⑥ なぜゲージ対称性が「幾何学」なのか?
- ゲージ理論は、抽象的な「内部空間」を持ち、数学的には「ファイバー束」の幾何構造で表現される。
- ゲージ変換は、このファイバー束上の幾何学的な座標変換に相当する。
- この幾何学的解釈が、ゲージ理論を理解する上で極めて重要。
🎯【まとめ】
時代 | 代表的出来事 | ゲージ理論の展開 |
---|---|---|
1918年 | ワイルが「ゲージ概念」を導入 | ゲージ理論の原初的発想(幾何学的) |
1954年 | ヤン=ミルズ理論誕生 | 非可換ゲージ理論が成立 |
1960-70年代 | 電弱理論・量子色力学(QCD)成立 | ゲージ理論が物理学の基礎として定着 |
1970年代 | ファイバー束による幾何学的記述が普及 | ゲージ理論が幾何学的に理解される |
ゲージ理論は単なる数学的記号操作ではなく、内部空間の構造を研究する「幾何学」としての側面を持つことが、現代物理と数学の融合の典型例として捉えられています。
以上の流れから、CPT対称性と同様に、ゲージ理論(ゲージ対称性)は「幾何学」の一種として位置づけられます。
CPT対称性(CPT Symmetry)は、「時空対称性(spacetime symmetry)」に分類されます。特に、物理学における基本的な対称性の一つであり、幾何学的に表現すると「ローレンツ幾何学(Lorentzian geometry)」に基づいています。
詳しく説明すると:
- CPT対称性とは、粒子物理学における3つの変換を同時に適用することで得られる対称性です。
- C(Charge conjugation):電荷共役変換
→ 粒子と反粒子を入れ替える変換。 - P(Parity transformation):空間反転変換
→ 空間座標を反転させる(鏡映する)変換。 - T(Time reversal):時間反転変換
→ 時間の流れを逆転させる変換。
- C(Charge conjugation):電荷共役変換
- 物理法則がこれら3つの操作を同時に適用すると不変であるというのが、「CPT対称性」です。この性質は、量子場の理論(QFT:Quantum Field Theory)において厳密に成り立つ基本的な原理(CPT定理)として知られています。
幾何学的な観点:
- CPT対称性は、ミンコフスキー空間(Minkowski spacetime)という時空の幾何学的構造に関係しています。これは特殊相対性理論の舞台となる時空であり、ローレンツ変換によって特徴付けられます。
- 幾何学的に言えば、CPT対称性は「ローレンツ対称性(Lorentz symmetry)」というミンコフスキー空間特有の性質に由来しています。つまり、「ローレンツ幾何学」という幾何学の一種に分類されることになります。