プランク秒、プランク長|ビッグバンは空間のあらゆるスケールで同時に発生

プランク秒、プランクスケール
宇宙の起源を探ると、必然的に「プランク秒」と「プランクスケール」という極限の領域に行き着く。プランク秒(10^{-43}秒)は、時間の最小単位とも言えるスケールであり、それよりも短い時間では「時間」という概念そのものが崩壊する。一方、プランクスケール(10^{-35})は、時空の最小構造を示し、それより小さな領域では一般相対性理論も量子力学も意味をなさなくなると考えられる。
ビッグバンの発生「一点」ではなく「全空間」
古典的な誤解の一つは、「ビッグバンが宇宙のある一点で発生し、そこから拡がった」というイメージである。しかし、現代宇宙論では、ビッグバンは「ある一点で起こった爆発」ではなく、空間のあらゆる場所で同時に発生した現象と考えられている。これは、宇宙が「何かの内部で爆発した」のではなく、時空そのものが誕生し、急速に拡張したことを意味する。
この膨張の影響は、現在の観測にも現れている。宇宙の年齢は約138億年であるが、ビッグバン直後に放たれた光(宇宙マイクロ波背景放射, CMB)が届いたとき、その光源となる場所は現在約460億光年の距離にある。観測では、全方位に対して、460億光年のスケールで遠方が見える。これは、どこか1点にビッグバンがあったわけではなく、宇宙が全方位で膨張し続けているためであり、空間そのものが引き伸ばされ、138億年の間に460億光年のスケールまで拡大したことを意味する。
プランクスケールでの時空のゆらぎと宇宙の「ムラ」
ビッグバン直後の「プランク秒」の間、時空は量子ゆらぎに満ちており、「なめらかな空間」ではなく「泡のように揺らぐ構造」を持っていた可能性が高い。この状態では、一般相対性理論と量子力学が交差し、時間と空間が確定した形を持たない「量子重力の領域」が広がっていた。
もしこのときのゆらぎが「均一」であれば、現在の宇宙も完全に均質でなければならない。しかし、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に見られる微細な温度ムラ(異方性)は、プランクスケールの量子的なゆらぎがインフレーションによってマクロスケールに拡大された結果であると考えられている。これは、「ビッグバンの瞬間にすでに宇宙の大規模構造の種が存在していた」ことを示唆している。
また、宇宙の膨張は完全に均一ではなく、ムラがあることも観測されている。理論上、空間は平均して毎億年ごとに約1.008倍に引き伸ばされているが、この膨張率にも局所的なばらつきが存在する。これは、初期の宇宙の密度ゆらぎが現在の銀河の分布に影響を与えているためと考えられている。
ビッグバンの晴れ上がりと宇宙の膨張
現在、ビッグバンが発生した約138億年前の宇宙の「晴れ上がり」の様子を直接観測することができる。宇宙が誕生して約38万年後、電子と陽子が結びつき、光が自由に進めるようになった瞬間が「宇宙の晴れ上がり(再結合期)」であり、その光が宇宙マイクロ波背景放射(CMB)として現在も観測されている。このCMBの温度ムラは、初期宇宙の密度ゆらぎを反映しており、現在の銀河や宇宙の大規模構造の形成の種となった。
この晴れ上がりの光が出発したのは138億年前であるが、その地点は現在460億光年の距離にある。これは、宇宙の膨張が空間を引き伸ばした結果、光が移動する間に距離が増大していったためである。
ビッグバンは時空の誕生であり、あらゆるスケールで同時に起こった
一般相対性理論によると、宇宙の膨張は「物質が移動する現象」ではなく、「空間そのものが拡張する現象」である。そのため、ビッグバンは特定の「中心」を持たず、あらゆる場所で同時に発生し、時空のスケールがプランクスケールからマクロスケールへと急速に拡張した。
この考え方は、ビッグバンの前には何があったのか? という問いにも影響を与える。もし宇宙が「プランクスケールで量子的な泡のような構造」を持っていたならば、それが「バウンス(跳ね返り)」を繰り返し、現在の宇宙が生まれた可能性もある(ループ量子重力理論のシナリオ)。あるいは、ビッグバンは「無」からの創造ではなく、量子ゆらぎによって生じた時空の相転移だった可能性もある。
一般相対性理論の重力波は光速定数以上の速度をもたないが、現在の観測をもとにすると、重力場は光速を超えるスピードで拡張している領域がある。
一般相対性理論に基づく宇宙膨張と光速の壁
(1) 空間の膨張は「物体の移動」と異なる
- 特殊相対性理論では、「物質や情報の伝達速度は光速を超えられない」。
- しかし、一般相対性理論に基づく宇宙膨張では、「空間そのもの」が拡張するため、物体の運動とは異なり光速の制限を受けない。
(2) ある距離を超えると、銀河は光速を超えて遠ざかる
- ハッブルの法則: v=H0d ここで、
- vは銀河の後退速度
- H0 はハッブル定数
- d は銀河までの距離
- 距離 d が十分に大きいと、後退速度 v が光速 c を超える。
- これは、銀河が「光速を超えて動いている」のではなく、「空間自体が光速以上の速度で拡張している」ことを意味する。
(3) インフレーション期では光速を大きく超えた膨張が起きた
- ビッグバン直後の10^{-35} 秒から 10^{-32} 秒の間、宇宙は指数関数的な超光速膨張(インフレーション)を起こした。
- これは、通常の膨張とは異なり、空間そのものが極めて短時間で指数関数的に拡張した現象。
- この間、2つの点の距離は光速の何兆倍もの速さで広がったと推定されている。
観測が示す未来——プランクスケールの痕跡を探る
現在の観測技術では、プランクスケールの直接的な証拠を得ることはできない。しかし、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のBモード偏光や、ブラックホール周辺の量子重力効果を観測することで、間接的にこのスケールでの物理を検証できる可能性がある。もし今後、プランク秒やプランクスケールでの「時空のゆらぎ」の証拠が発見されれば、それはビッグバンの瞬間が時空全体で同時に発生したことの決定的な証拠となるだろう。
結論
ビッグバンは単なる「点」からの爆発ではなく、時空そのものの誕生であり、空間のあらゆるスケールで同時に発生した現象である。
この過程では、プランクスケールでの量子的なゆらぎが膨張し、現在の宇宙の構造を生み出した可能性がある。
また、宇宙の膨張は完全に均一ではなく、理論上毎億年ごとに約1.008倍に引き伸ばされているが、局所的なムラが存在することも観測されている。
今後の研究によって、プランクスケールでの物理現象の痕跡が発見されれば、宇宙の誕生とその本質がより明確になる可能性がある。