3つの基本対称性 CPT|Charge conjugation, Parity, Time Reversal Symmetry

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3つの基本対称性 CPT|Charge conjugation, Parity, Time Reversal Symmetry

物理法則や物理現象を証明・理解する際に、対称性は重要な役割を果たします。特に、力や相互作用を考える際に「対称性が成立するかどうか」は、物理法則がどのように振る舞うかを理解する手がかりになります。

1. 3つの基本対称性

物理学では、一般に以下の3つの基本的な対称性を考えます:

  1. 時間反転対称性(T対称性):時間を逆向きにしても物理法則が変わらない。
  2. 空間反転対称性(P対称性):空間座標を反転(鏡映)しても物理法則が変わらない。
  3. 荷電共役対称性(C対称性):粒子と反粒子を入れ替えても物理法則が変わらない。

これらの対称性が組み合わさって、CPT対称性(C対称性、P対称性、T対称性をすべて含む対称性)が基本的に成立すると考えられています。

CPT対称性とは、物理学における基本的な対称性の1つで、以下の3つの対称性の組み合わせを指します。

  1. C対称性(Charge conjugation symmetry, 荷電共役対称性)
    • 意味:粒子を反粒子に置き換えたときに、物理法則が変わらないこと。
    • :電子(負電荷)を陽電子(正電荷)に置き換えても、同じ物理法則が成り立つかどうか。
    • 破れ:弱い相互作用ではC対称性が破れる。
  2. P対称性(Parity symmetry, 空間反転対称性)
    • 意味:空間座標を反転(鏡映)したときに、物理法則が変わらないこと。
    • :右手系の座標を左手系に変換しても、同じ物理法則が成り立つかどうか。
    • 破れ:弱い相互作用ではP対称性が破れる。
  3. T対称性(Time reversal symmetry, 時間反転対称性)
    • 意味:時間を逆向きに進めたときに、物理法則が変わらないこと。
    • :ボールを転がしたとき、時間を逆にしたらその運動が再現されるかどうか。
    • 破れ:一部の量子系ではT対称性が破れることが知られている。

CPT対称性の重要性

量子場の理論では、「CPT定理」によって、CPT対称性は必ず成り立つとされています。
つまり、仮にC・P・Tのいずれかが破れたとしても、3つをすべて組み合わせたCPT対称性は崩れないと考えられています。

例:弱い相互作用

  • C(荷電共役対称性)→ 破れる
  • P(空間反転対称性)→ 破れる
  • T(時間反転対称性)→ 破れる
    ➡ しかし、CPT対称性は成立する

この性質は、標準模型や場の量子論において非常に重要な概念です。

2. 4つの基本相互作用と対称性

物理学には、4つの基本相互作用(力)があり、それぞれの対称性が異なります。

力の種類T対称性P対称性C対称性CPT対称性
強い相互作用(強い力)✅ 成立✅ 成立✅ 成立✅ 成立
弱い相互作用(弱い力)❌ 破れる❌ 破れる❌ 破れる✅ 成立
電磁気力✅ 成立✅ 成立❌ 破れる✅ 成立
重力✅ 成立✅ 成立✅ 成立✅ 成立
  • 強い相互作用(強い力) → ほぼ全ての対称性が成立
  • 弱い相互作用(弱い力) → すべての個別対称性(C, P, T)が破れるが、CPT対称性は成立
  • 電磁気力 → P対称性とT対称性は保たれるが、C対称性は破れる
  • 重力 → 現在の一般相対論の枠組みでは、すべての対称性が成立する

3. 重力は3つの力に対して対称性が成立するか?

「強い力・弱い力・電磁気力の3つの反転対称性が成立する力は重力であるか?」

  • 時間反転対称性(T対称性):重力は時間を反転しても方程式が成立する(例えば、一般相対論のアインシュタイン方程式)。
  • 空間反転対称性(P対称性):重力はスカラー場として記述できるため、空間反転しても変化しない。
  • 荷電共役対称性(C対称性):重力は電荷を持たず、質量に依存するため、粒子と反粒子を入れ替えても影響を受けない。

したがって、重力は3つの対称性をすべて満たす特別な力であるといえます。これは、他の3つの相互作用(強い力、弱い力、電磁気力)のいずれかが何らかの対称性を破るのとは対照的です。

4. まとめ

対称性重力波における成立可否理由
T対称性(時間反転)✅ 成立波の伝播方向が逆になるが、波動方程式自体は変わらない
P対称性(空間反転)✅ 成立空間反転しても波の伝播方向は変わらず、基本法則は変わらない
C対称性(荷電共役)✅ 成立重力波は電荷に依存しないため、粒子と反粒子の入れ替えによる影響がない
光速定数✅ 光速 cで伝播観測結果と一致
無限の時間✅ 理論上成立エネルギー散逸がない場合、無限に伝播し続ける

重力波は「時間反転・空間反転の対称性を持ちつつ、光速で伝播し、理論上は無限の時間にわたって存続する」という特異な物理現象であることがわかります。


Charge Conjugation(荷電共役)とは?

Charge Conjugation(C変換, 荷電共役変換) とは、粒子を対応する反粒子に置き換える対称操作のことです。

1. Charge Conjugation の定義

  • 粒子と反粒子の関係を表す変換
  • 荷電共役変換 C を適用すると、すべての粒子が対応する反粒子に変換される
  • 例えば、電子 (e−) は陽電子 (e+) に、陽子 (p+) は反陽子 (pˉ−)に変換される

C∣electron⟩=∣positron⟩

C∣proton⟩=∣antiproton⟩

C∣quark⟩=∣antiquark⟩

また、電磁場における電荷の符号が反転するため、荷電粒子の電場・磁場も反転します。

2. Charge Conjugation の特徴

  • 電荷を持たない粒子(光子や中性子など)はどうなるか?
    • 中性子 (n) はクォーク(u, d)から構成されるため、C変換で反中性子 (nˉ) になる
    • 光子 (γ) は電磁場の量子であり、C対称性の下では不変(自己共役)
    • π^0(中性パイ中間子)もC対称性の下で不変(自己共役)
  • 強い相互作用とC対称性
    • 強い相互作用(量子色力学, QCD)はC対称性を満たす
  • 電磁相互作用とC対称性
    • マクスウェル方程式(電磁気学)はC対称性を満たす
  • 弱い相互作用はC対称性を破る
    • ウィークボソン(W^+, W^-)はC対称性を破る
      • 例えば、弱い相互作用では左巻きのニュートリノ(ν_L​)しか存在せず、反ニュートリノ(νˉ)は右巻きでしか存在しない
      • もしC対称性が成立するなら、右巻きニュートリノも存在するはずだが、実験的には観測されていない
      • このため、C対称性は弱い相互作用では破れる

3. C対称性の破れ

  • 実験的に、弱い相互作用(例えばβ崩壊)ではC対称性が破れていることが知られている
  • C対称性だけでなく、P対称性(空間反転対称性)も破れる
  • しかし、CとPを組み合わせたCP対称性はほとんどの物理現象で成り立つ
  • ただし、CP対称性も小さいが破れる(CP対称性の破れは素粒子の物質・反物質の非対称性に関係)
  • しかし、CPT対称性(C, P, T をすべて組み合わせた対称性)は理論上破れないとされている(CPT定理)

4. まとめ

粒子C変換後の状態
電子 (e−)陽電子 (e+)
陽子 (p+)反陽子 (pˉ−)
クォーク (q)反クォーク (qˉ​)
光子 (γ)変化しない(自己共役)
中性パイ中間子 (π^0)変化しない(自己共役)
ウィークボソン (W^+)C対称性を破る
  • 荷電共役変換(C変換)とは「粒子と反粒子を入れ替える操作」
  • 強い相互作用や電磁相互作用はC対称性を満たすが、弱い相互作用はC対称性を破る
  • ただし、CPT対称性は常に成立すると考えられている

「ツール」としてのCPT対称性

CPT対称性は、次のような方法で物理学に役立つ。

(1) 理論構築における「チェックツール」

  • 新しい物理法則や相互作用を考えるとき、CPT対称性が成り立っているかをチェックすることで、その理論が物理的に妥当かどうかを判断できる
  • 例えば、新しい粒子が発見された場合、CPT対称性を使って反粒子の性質を予測できる。

(2) 実験結果の整合性を確認する「検証ツール」

  • 粒子と反粒子の性質を比較することで、CPT対称性の破れを検出できるかもしれない
  • 例:
    • 陽電子と電子の質量が同じか?
    • 反陽子と陽子の崩壊率が一致しているか?

(3) 未知の物理(CPT対称性の破れ)の探索

  • 現在の物理理論ではCPT対称性は普遍的だが、「もしCPT対称性が破れたら?」という仮説を検証することで、新しい物理の可能性を探る手がかり になる。
  • 例えば、宇宙における物質・反物質の非対称性(なぜ反物質がほとんど消えたのか)は、CP対称性の破れと関連しているが、CPT対称性の破れも関与している可能性がある。

まとめ

CPT対称性は、素粒子物理学の基本的な普遍法則であり、理論上は常に成立する。
標準模型ではCPT対称性の破れは観測されておらず、普遍的に成り立つと考えられる。
CPT対称性は、理論の検証や実験データのチェック、新しい物理の探索において「ツール」として利用できる。
しかし、CPT対称性は「計算ツール」ではなく、物理法則の制約条件として機能する。