マテリアルと肌触り

インナーウェアで使用される主要な生地のマテリアルとその元素構成を以下にまとめる。
マテリアル | 化学組成 | 主要元素 | 基本性質 | 用途 |
---|---|---|---|---|
コットン(綿) | セルロース(C6H10O5)n | C, H, O | 柔らかく吸湿性が高い。通気性が良い。 | Tシャツ、下着、デニム、タオル |
リネン(麻) | セルロース(C6H10O5)n | C, H, O | 吸湿性が高く、通気性が良い。丈夫で涼しい。 | 夏服、ワンピース、シャツ、スーツ |
ウール | ケラチン(タンパク質) | C, H, O, N | 暖かく、吸湿性が高い。弾力性がありチクチク感あり。 | 冬服、コート、セーター、スーツ |
シルク | フィブロイン(タンパク質) | C, H, O, N | 滑らかで光沢がある。吸湿性が高く高級感あり。 | 高級ドレス、スカーフ、ブラウス |
ポリエステル(PET) | ポリエチレンテレフタレート(C10H8O4)n | C, H, O | 耐久性が高く、速乾性がある。シワになりにくい。 | スポーツウェア、ジャケット、インナー |
ナイロン(PA) | ポリアミド(C6H11NO)n | C, H, O, N | 強度があり、耐摩耗性に優れる。吸湿性が低い。 | ストッキング、水着、スポーツウェア |
ポリウレタン(PU) | ポリウレタン([NH-(C=O)-O]n) | C, H, O, N | 非常に伸縮性が高く、弾力がある。 | ストレッチ素材、フィットネスウェア、補正下着 |
アクリル(PAN) | ポリアクリロニトリル(C3H3N)n | C, H, N | 軽量で保温性があり、ウールに似た風合い。 | セーター、コート、フェイクウール |
レーヨン(ビスコース) | 再生セルロース(C6H10O5)n | C, H, O | 柔らかく滑らか。吸湿性がありドレープ性が高い。 | ドレス、シャツ、スカーフ、裏地 |
主要マテリアルと元素構成
解説
- 天然繊維(コットン、レーヨン、シルク)
- コットン:植物由来のセルロースで構成され、吸湿性と柔らかさが特徴。
- レーヨン:天然パルプを化学処理して作られる再生セルロース繊維。シルクに似た滑らかさを持つ。
- シルク:蚕の繭から作られるタンパク質繊維で、滑らかで高級感がある。
- 合成繊維(ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル)
- ナイロン:ポリアミド樹脂をベースにした合成繊維で、強度が高く、軽量で速乾性がある。
- ポリウレタン:伸縮性が高いエラストマー素材で、ストレッチ素材に必須。
- ポリエチレン:軽量で滑らかだが、吸湿性はほぼゼロ。肌触りに独特のシャリ感がある。
- ポリエステル:吸湿性は低いが耐久性があり、速乾性に優れる。
インナーウェアの特徴と素材の選択
- 柔らかさ・吸湿性 → コットン、レーヨン、シルク
- 速乾性・軽量性 → ナイロン、ポリエステル
- 伸縮性・フィット感 → ポリウレタン混紡
- 肌あたりの軽さ → ポリエチレン混紡
ウールはアウターに主に使われ、インナーは稀にメリノウールが使用される。
現在のインナーウェア市場での主流繊維
繊維種類 | 代表的な素材 | 主な用途 | 特徴 |
---|---|---|---|
天然繊維 | コットン、シルク | 高級肌着、ナチュラル志向製品 | 柔らかく吸湿性が高いが、乾きにくく耐久性が低め |
再生繊維 | レーヨン(モダール、テンセル) | 柔らかい肌着、高級ランジェリー | シルクのような手触りだが、水に弱い |
合成繊維 | ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン | 速乾性・耐久性のあるインナー、スポーツウェア | 軽量・速乾・耐久性が高く、形状維持が容易 |
2. 化学繊維(合成繊維・再生繊維)が主流の理由
(1) コストと生産性
- 化学繊維は大量生産が可能 → 天然繊維に比べて供給が安定し、価格が安い。
- 耐久性が高い → 天然繊維よりも洗濯や摩擦に強く、長持ちする。
(2) 吸湿速乾・機能性
- ポリエステルやナイロンは速乾性があり、汗をかいてもすぐ乾くため、スポーツウェアや日常インナーに最適。
- ポリウレタンを混紡することでストレッチ性が向上し、着心地の良いフィット感を実現。
- 吸湿発熱や冷感素材(例:ユニクロのヒートテックやエアリズム)など、化学繊維は機能性向上が可能。
(3) 天然繊維の欠点
- コットンは吸湿性が高いが乾きにくい → 汗を吸ってもなかなか乾かず、蒸れやすい。
- シルクは高級感があるが、価格が高く取り扱いが難しい。
- レーヨン(再生繊維)は滑らかで高級感があるが、水に弱く縮みやすい。
日本のアパレル業界の背後にある基礎技術
① 化学メーカーの技術力と安定供給力
信越化学、東レ、帝人、旭化成など日本の化学メーカーは、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン(スパンデックス)など化学繊維の分野で世界的にトップレベルの技術力を誇っています。日本メーカーは特に品質管理能力が高く、繊維の品質が安定しているため、アパレル業界は高品質な製品を安定的に製造できるメリットがあります。
② 調達コストの低さだけではない
一方で、日本の化学メーカーが生産する繊維は必ずしも世界最安とは限りません。中国や東南アジアメーカーと比較すると、労務費や光熱費の観点から原料価格自体はやや高めな場合もあります。しかし、品質・耐久性・機能性・環境対応など付加価値の高さがあるため、総合的に見るとコストパフォーマンスが良く、結果として業界全体が強くなっています。
③ 高付加価値な機能性繊維に強み
日本は単なる化学繊維だけでなく、高機能繊維において世界的に競争力があります。例えば、
- 吸汗速乾性のあるポリエステル
- 伸縮性と耐久性を兼ね備えた高品質ポリウレタン(スパンデックス)
- 軽量性、保温性を持つナイロン系特殊繊維
こうした機能性繊維はスポーツウェア、インティメイトウェア、シェイプウェアなどに重宝されており、日本のアパレル業界が好調になる要素となっています。
④ サプライチェーンの安定性
化学メーカーとアパレル企業間の協力体制が緊密で、在庫管理、生産管理、品質管理において安定性が高く、トラブルが少ないことも日本のアパレル業界が競争力を持つ理由です。