スタートアップにおけるBVI(英領ヴァージン諸島)-Cayman(ケイマン諸島)-Singapore-日本|新たなストラクチャの可能性

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スタートアップにおけるBVI(英領ヴァージン諸島)-Cayman(ケイマン諸島)-Singapore-日本|新たなストラクチャの可能性

BVI(英領ヴァージン諸島)とケイマン諸島の使い分けについて、アジア企業が典型的に用いるスキームやそれぞれの特徴を整理する。

① BVIとケイマン諸島の主な違い(法規制と利用場面)

項目BVI(英領ヴァージン諸島)ケイマン諸島
NASDAQ上場の実績少ない非常に多い(アリババ、百度など多数)
投資家KYCの厳格さ緩やか(パスポート収集頻度が少ない)厳格(毎年のパスポート収集等、継続的なKYC必須)
コーポレートガバナンス比較的簡素で自由度が高いより透明性が求められ、ガバナンス規制が厳格
一般的な利用シーン株主が多数でKYCの手間を避けたいとき、中間持株会社、私募ファンドのSPVなど上場目的、米国市場などへのIPO、外部投資家からの大型資金調達
コスト比較的安価やや高価(監査要件、年次維持費などが高め)

② BVIとケイマン諸島を併用した典型的なスキーム例

以下のような階層構造がよく用いられます。

【例1:Alibaba(2014年当時)のような中国企業の典型スキーム】

米NASDAQ市場 (上場)
 ↓(USD資金調達、透明性の高いケイマン諸島法人)
ケイマン諸島(上場主体・中間持株会社)
 ↓(配当、資金移転の柔軟性、KYC緩和)
香港法人(外貨建ての取引、為替リスク管理)
 ↓(本業を運営)
中国本土法人(実際の業務)

BVI法人(中間持株会社)

【例2:Vinfast(2023年当時 ベトナム企業)の典型スキーム】

米NASDAQ市場 (上場)
 ↓
ケイマン諸島法人(上場法人、透明性が高い)
 ↓
シンガポール法人(地域統括、為替リスク管理)
 ↓
ベトナム法人(実際の事業運営)


SPAC BlackSpade BVI法人(株主KYC管理が簡便)

③ 日本企業における実績とスキーム適用の可能性

③ 日本企業における実績が少ない理由

日本ではBVI-Cayman-Singaporeスキームがほぼ使われない主な原因は以下の通り。

  • 移転価格税制に関する厳格な国税庁の監視
  • オーナー株式の海外移転に関して非常に厳しい国税監視があるため
  • シンガポールやケイマンを使った海外スキームを導入するためには、会社設立時点からストラクチャリングが必須である。ベンチャーキャピタル等の資金調達を日本国内で済ませた後からでは、実務上ケイマンスキームを採用することが困難である。

【今後考えられる日本企業のスキーム例】

NASDAQ市場 (上場)
 ↓
ケイマン諸島法人(IPO主体)
 ↓
シンガポール法人(アジアの中間統括、為替管理)
 ↓
日本法人(国内事業の運営)

BVI法人(上場前の複数投資家管理を簡素化)

④ 日本法人で事業を進めるメリット

一方、日本法人を活用して進める場合には以下のような圧倒的な金融メリットがある。

  • 世界的にも最も低い水準の銀行金利
  • 円という強い通貨でありながら、他のアジア通貨とは異なり自由にUSDへの交換が可能で、為替規制がほぼ存在しない。
  • 従業員にとって特に有利なのは住宅ローンであり、USD経済圏と比較して圧倒的に低金利で、さらに長期間(最大35年程度)の借入が可能である。これは従業員に対し、日本企業勤務でしか得られない非常に大きな経済的メリットを提供している。

したがって、海外調達や為替リスク管理のための複雑な多層構造が必要なければ、日本法人としての運営はむしろ魅力的な選択肢となりうる。

④ 結論・使い分けポイントの整理

  • NASDAQ上場が目的
    → ケイマン諸島が主流(透明性、ガバナンス重視)。
  • KYC・投資家情報管理の手間を軽減したい場合
    → BVIを中間法人に活用。
  • アジア地域(特に中国・ベトナム等)から資金調達し、為替管理や外貨移動の柔軟性を高めたい場合
    → 香港やシンガポール法人を組み込んだ多層スキームを採用。
  • 日本企業では実績が少ないが、今後グローバル展開やUSD資金調達を考える場合に検討価値あり。