気候変動に関する「京都議定書」から「IPCCの合意(たとえばパリ協定に向けた科学的合意形成)」に至るまでの歴史的過程は、国際的な気候政策と科学的知見の進展の相互作用としてとらえることができます。以下、重要なマイルストーンを時系列で整理します。
【1】1970〜1980年代:気候変動への科学的関心の高まり
- 1979年:第1回世界気候会議(WCC)がジュネーブで開催。CO2排出と温暖化の関係が国際的に認識され始める。
- 1988年:IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change=気候変動に関する政府間パネル)設立。
- 国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)の主導。
- 科学的知見をまとめ、各国政府への政策提言を行う組織。
【2】1992年:気候変動枠組条約(UNFCCC)採択
- 1992年 リオ地球サミットにて採択。
- 温室効果ガスの「安定化」を目指す枠組みであり、法的拘束力は弱い。
- 「共通だが差異ある責任(CBDR)」という原則が確認され、先進国により強い義務が課される。
【3】1997年:**京都議定書(Kyoto Protocol)**の採択
- COP3(第3回締約国会議)@京都で採択。
- 2008〜2012年の第一約束期間において、先進国に法的拘束力のある温室効果ガス削減義務(1990年比5.2%削減)を設定。
- 途上国は削減義務なし。
- クリーン開発メカニズム(CDM)、排出権取引制度(ETS)など市場メカニズムを導入。
【4】2000年代〜:科学的知見の蓄積とIPCC報告書の進化
- IPCC 第3次(2001)、第4次(2007)、第5次(2014)評価報告書を通じて、気候変動の人為的原因が明確化。
- 2007年にはIPCCとアル・ゴアにノーベル平和賞。
- 科学的合意:「気候変動の主要因は人間活動」「2℃上昇を超えると深刻なリスク」
【5】2015年:**パリ協定(Paris Agreement)**の採択
- COP21@パリで採択。
- 京都議定書とは異なり、先進国・途上国問わず全ての国が削減目標を提出(NDC: Nationally Determined Contributions)。
- 産業革命前からの気温上昇を「2℃未満に抑える」「1.5℃目標を努力目標として追求する」と明記。
- **法的拘束力は弱いが、進捗報告とレビュー(透明性枠組み)**が導入。
【6】2020年代以降:脱炭素化とネットゼロの潮流
- IPCC 第6次報告書(2021–2023):1.5℃目標を守るには「2030年までに45%削減」「2050年までに実質ゼロ」が必要。
- 各国が**ネットゼロ宣言(Net Zero by 2050など)**を出す。
- 気候正義(Climate Justice)や損失と損害(Loss and Damage)の議論が深まる。
補足:IPCCと国際合意の役割の違い
機関・枠組み | 役割 |
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IPCC | 科学的知見の集約と報告(政策立案の根拠) |
UNFCCC / COP | 政治的な合意形成と政策の実行枠組み(国際条約) |
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が公表してきた**気候変動評価報告書(Assessment Reports, AR)は、約5〜7年ごとに科学的知見を集大成したもので、最新は第6次評価報告書(AR6)です(2021〜2023年にかけて公表)。以下に、その要旨(Synthesis Report, SYR)**の要点をまとめます。
🌍 IPCC第6次評価報告書(AR6, 2023年)要旨【SYRまとめ】
🔹 構成
- SPM(Summary for Policymakers)政策決定者向け要約
- Longer Report(全文)
- Figures and Annexes(図表・用語)
✅ 1. 人間活動による気候変動は「疑う余地がない」
- 「It is unequivocal(疑う余地がない)」と初めて明言。
- 人間の活動(特に温室効果ガス排出)が、地球の大気・海洋・氷・生態系に広範な変化をもたらしていると断定。
✅ 2. 世界の平均気温はすでに約1.1℃上昇(産業革命前比)
- このままでは、2030年代前半にも1.5℃の閾値を超える可能性が高い。
- 過去50年は過去2000年で最も急激な温暖化。
✅ 3. 気候変動の影響はすでに深刻化している
- 海面上昇、極端気象(熱波・豪雨・干ばつ・山火事)、
- 食料・水資源・健康への深刻な影響
- 特にグローバル南(途上国)・小島嶼国が脆弱
✅ 4. 気温上昇を1.5℃以内に抑えるには2030年までにCO₂を45%削減(2019年比)
- 2050年までに**ネットゼロ(実質排出ゼロ)**を達成する必要。
- メタンやN₂Oなど他の温室効果ガスの削減も不可欠。
✅ 5. 今すぐの行動がカギ:対応策はまだ間に合うが時間は非常に限られている
- 技術・制度・金融の手段はすでに存在。
- ただし「現行の政策・投資のままでは1.5℃目標は達成不可能」。
- 社会全体での転換的(transformational)変化が必要
✅ 6. 適応策と損失・損害への備えも強化が必要
- すでに回避できない影響(海面上昇、干ばつなど)への備えが必要。
- 「損失と損害(Loss and Damage)」の補償を巡る先進国と途上国の対話の深化。
🔍 重要な数値指標(AR6から)
指標 | 内容 |
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🌡️ 気温上昇 | +1.1℃(2021年時点) |
📅 1.5℃到達予測 | 2030年~2035年頃 |
🧯 削減目標 | 2030年までにCO₂を45%削減、2050年にネットゼロ |
🌊 海面上昇 | 1901〜2018年に約20cm上昇、2100年までに最大1mリスク |
🔄 IPCCの役割と性格
要素 | 内容 |
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🔬 科学的中立性 | 政策提言はしない(“policy-relevant but not policy-prescriptive”) |
🧑🔬 データ出典 | 世界中の査読済み論文をメタレビュー |
📘 報告書構成 | WG1:自然科学基礎, WG2:影響と適応, WG3:緩和策, SYR:統合報告 |