Fit and Proper Criteria|シンガポールMASの財務健全性要件

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Fit and Proper Criteria|シンガポールMASの財務健全性要件

シンガポールMASによるFit and Proper審査では、ファンドマネージャー(VCFM等)に対して非常に高い誠実性・信用性の基準が求められ、「金融事故歴ゼロ」が事実上の前提条件となっています。

シンガポールMAS(Monetary Authority of Singapore)が定める**「Fit and Proper Criteria」は、ファンドマネージャー(VCFMを含む)が適格かどうかを判断するための中核的審査基準です。
これは形式的なライセンス要件以上に
MASの実質的な信用審査ツール**として使われており、極めて厳格かつ包括的です。

🔹 MAS Fit and Proper Guidelines の意義

✅ 対象者:

  • ファンドマネージャー(VCFM/LFMC/RFMC)の経営者・責任者・取締役・実質的支配者
  • 投資判断を行うKey Persons(CMSLの代表・責任者)
  • 登録・ライセンス取得申請時、および変更・継続時に必要

🔸 チェックリスト:Fit and Proper 3本柱

MASの「Fit and Proper Guidelines(FSG-G01)」に基づき、以下の3つの柱で評価されます:

🔸 1. Honesty, Integrity & Reputation(誠実性・高潔性・信用)

チェック項目
☐ 過去に詐欺、背任、金銭トラブルなどの刑事・民事処分歴がないか
☐ 規制当局による業務停止・警告・免許剥奪などがないか
自己破産歴・債務不履行歴がないか
☐ 社会的・職業的信用を毀損するような行動歴がないか
虚偽の申請・開示を過去に行っていないか
☐ 他国の規制当局からも制裁歴・警告歴がないか

🔸 2. Competence & Capability(能力・専門性)

チェック項目
☐ 当該役職にふさわしい**専門知識・経験(例:投資業務、リスク管理)**があるか
☐ 資格・学位・専門スキルを有しているか(例:CFA、CPA、MBA等)
☐ これまでの勤務経験で類似職責に就いた実績があるか
☐ 投資判断や運用管理を実際に遂行できるスキルがあるか
☐ 適切なコンプライアンス知識・規制知識があるか

🔸 3. Financial Soundness(財務的健全性)

チェック項目
債務超過に陥っていないか(個人または法人)
自己破産・清算手続中でないか
☐ 頻繁な支払遅延・債務不履行歴がないか
☐ 事業運営に耐える自己資金・運転資本を有しているか
☐ 金融犯罪・マネーロンダリングへの関与が疑われるような取引歴がないか

🔹 実務対応:申請時に必要な書類・証明

書類名内容
Fit and Proper Declaration Form自己申告書:上記の3本柱に沿ってチェックボックス方式で提出
✅ 履歴書(CV)学歴・職歴・資格を含む詳細
✅ 資産状況開示(必要に応じて)運営資本の源泉と保有資産に関する説明
✅ 誓約書虚偽申告があった場合の責任を明記
✅ 必要に応じて第三者証明(ex. Reference letter, Clean record letter from past regulator)

🔹 審査の厳格性:どこまで見られるか?

  • MASは形式的チェックではなく、**背景調査(background check)**も含めて審査する。
  • 国際的な制裁リスト、犯罪歴データベース、AML watchlist なども参照。
  • 不明点やリスク懸念がある場合、補足資料や面談要求されるケースもある。

🔸 留意点

注意事項解説
申請拒否理由に関する説明通常、詳細な理由は開示されない(審査の裁量が大きい)
修正申請の余地書類の不備・補足説明で再提出を許されるケースあり
海外在住者本人確認や信頼性証明のため公的書類の英訳+公証が必要になることも

✅ 総括

項目厳格度
誠実性(Integrity)非常に高い(制裁・訴訟歴があると致命的)
能力(Competence)過去の役職・資格・投資経験が重視される
財務健全性負債・信用状態に不安があると登録不可

🔹 特色のある要件

✅ 1. 「上司とのトラブル」や職場不適応

これはMASの「Fit and Proper Guidelines(FSG-G01)」の中で次のように位置づけられます:

“A person must have a sound record of employment and not have been dismissed, asked to resign, or left employment due to concerns about honesty or integrity.”

つまり、以下のような経歴があると適格性を疑われる可能性があります:

具体例影響
上司との信頼崩壊で解雇・退職適格性を否定されるリスクあり
コンプライアンス違反で内部通報・懲戒処分誠実性の観点で審査に影響
人間関係や対立の履歴重大な場合、背景調査で問題視される

✅ 2. 「シンガポールまたは他国における債務不履行歴」

こちらはMASがFit and Proper Criteriaで明記する、**Financial Soundness(財務的健全性)**の中核です。

“A person should not be an undischarged bankrupt or be subject to bankruptcy proceedings, or have been a director or substantial shareholder of a company that has been wound up on the grounds of insolvency.”

よって、以下が審査項目となります:

項目審査内容
☐ 個人としての破産・債務不履行国内外問わず、記録があると基本的に不適格
☐ 破産申し立て中でないか進行中でもアウト
☐ 自分が関与した会社の財務破綻取締役・株主として関与していた場合は説明・責任が問われる
☐ 倒産企業からの資金流用・資産毀損明確にアウト(詐欺やfiduciary duty違反)

※特に破綻時に取締役であった場合、その企業の貸借対照表や清算報告などの開示を求められることもあります。

🔸 まとめ:MASが求める「完全無事故歴」の意味

項目要件
✅ 雇用・人間関係解雇・職場トラブル・信頼毀損歴がない
✅ 法的信用民事・刑事問わず金融不正や債務履行失敗歴がない
✅ 経営責任倒産企業の責任者としての関与がない
✅ 国際性シンガポールのみならず全世界の事案が審査対象になる

これは単なる形式審査ではなく、誠実性と信頼性において「限りなく清廉な人物」であることが求められるという意味です。

✅ 実務(VCFM申請)

  1. 過去10年の勤務歴・役職履歴を正確にまとめる
  2. 過去に関与した法人すべての財務的健全性を確認
  3. 過去のトラブル(辞職・解任など)に正当な説明がつけられるか用意
  4. 公的証明書(破産記録なし証明等)を必要に応じて準備

🔹 Conflict of Interest と Full-time Dedication の関係

シンガポールMASの規制下でファンドマネージャー(特にVCFMやLFMCの責任者)として登録される場合、**Conflict of Interest(利益相反)**の観点から、職務に対する「Full-time Dedication(全時間専念)」が原則として求められます。

✅ なぜサイドビジネスが制限されるのか?

  • サイドビジネスが利益相反や忠実義務の逸脱を生む可能性があるため
  • 投資判断・資産管理などに従事する者が、外部で他人の利益に従って動くことは、受益者保護の観点で容認されない

🔸 MASの明文化されたスタンス

MASのCMSガイドラインやVCFMに対する登録確認書類において、以下のような文言が示されることがあります:

“Key persons (e.g. CEO, Directors, Responsible Officers) are expected to devote their full professional attention to the management of the fund management business and must not be engaged in other business activities unless approved by the board and disclosed to MAS.”

つまり、

項目内容
✅ Full-time が原則投資業務の責任者(例:CEO, CIO, RO)はフルタイムでその職責に専念することが求められる
✅ 例外は要届出サイドビジネス・他社役員兼務などをする場合、事前に取締役会承認 + MASへの開示が必要
✅ 兼務の記録開示MAS提出書類(Form 1/1A)では過去の役職・兼務履歴を詳細に記載する欄がある

🔹 典型的に制限される「サイドビジネス」の例

行為説明
他社の取締役・顧問無報酬であっても要開示。投資先と関連する場合は重大な利益相反に。
個人での株式・不動産投資投資対象がファンドと重複する場合、内部者取引の疑念に
副業収入(コンサル・講演・報酬)投資判断に影響を与えるような活動は特にNG対象になりやすい
スタートアップの共同創業ファンドの投資先と競合・重複する可能性が高く、厳しく制限される

🔸 実務での対応例

対応解説
✅ 申請前に全副業・兼務を洗い出すMAS申請時に一貫性をもたせるための重要な準備
✅ すべての外部関与を社内取締役会でレビューコンフリクトポリシーに従い判断、minutesを残す
✅ サイドビジネスを行う場合は事前開示 + マネジメント計画書提出例えば週に何時間か、利益分配はどうなるかなど具体的に説明できる体制が必要
✅ Fund LPへのDisclosureファンド投資家とのLPA(Limited Partnership Agreement)でも義務化される場合がある

✅ 総括:Conflict of Interest × Full-time Dedication

項目内容
Full-time DedicationMASの暗黙の期待水準。特にCEOやCIOなどKey Personは必須
Side Business制限原則NG。行う場合はBoard approvalとMAS開示が前提
対応の肝組織的ガバナンス(Conflict Policy)と情報の事前開示・文書化が決め手