SUPER S規格|スーパー表記
IWTO(International Wool Textile Organisation)は、国際的なウール産業の標準化団体であり、ウールの品質評価や取引基準を策定している中心的な組織です。その中で「SUPER S規格(通称:スーパー表記)」は、主に紳士用ウールスーツ地の繊維の細さを示す国際的な基準として使われています。
【1. SUPER表記の概要】
表記例 | 意味 |
---|---|
Super 100s | 最大繊維径が 18.75ミクロン 以下のウール |
Super 150s | 最大繊維径が 16.25ミクロン 以下のウール |
Super 250s | 最大繊維径が 11.25ミクロン 以下(IWTO規格の上限) |
- 繊維が細くなるほど柔らかく高級になり、Super表記の数字が上がる。
- 「Super」は繊維の平均ではなく最大径に基づく。
- Super表記は、ウール100%にのみ適用される(一部例外を除く)。
【2. SUPER規格の制定と歴史】
● 起源と背景
- 1960年代:イギリスで「Super S」表記がスーツ地に使われ始める。
- 1980年代:商業的誇張が増加し、基準の不明瞭さが問題に。
- 2000年代:IWTOが公式にSuper S規格を整備。
● 公式化の目的
- 世界市場での信頼性と比較可能性の担保
- 消費者に対する品質保証と誤認防止
- 不当表示(例:実際はSuper 100sなのにSuper 150sと表示)への対策
【3. IWTOの公式SUPER S規格】
- IWTOは、「The Fabric Labelling Code of Practice」(最新版:IWTO-66)に基づいて、Super Sの定義を明確化。
- 試験方法:代表的サンプルから繊維径を測定(90%以上が上限値以下であることが必要)
- 最大公式規格は Super 250s(11.25μm)。それ以上(Super 260s〜300s)は非公式(マーケティング的用法)。
【4. SUPER規格の表記ルール】
表記方法 | 要件 |
---|---|
Super 100s Wool | ウール100%、平均でなく最大径基準 |
Super 150s Blend | 50%以上が規定の繊維径ウールを使用 |
表記禁止 | 合成繊維ブレンドやリサイクル混紡素材には不可 |
【5. 表記の注意点と問題点】
- 実際の風合い=Super表記に必ずしも比例しない
- 例:Super 180sは繊細だがシワになりやすく耐久性に難
- 「Super 300s」などの表記はマーケティング表現であり、IWTO基準外
- 一部の不正表示業者による「詐称Super」も過去に摘発例あり
【まとめ】
項目 | 内容 |
---|---|
管轄機関 | IWTO(国際毛織物機構) |
SUPERとは | ウールの繊維の「最大直径」を表す品質等級 |
上限規格 | Super 250s(11.25μm)までが公式 |
表記目的 | 消費者保護・品質保証・国際基準化 |
歴史 | 1960年代起源 → 2000年代に公式整備 |
【1. Super S グレードとミクロン対応表】
Super S Grade | Maximum Fiber Diameter (Micron) |
---|---|
Super 80s | 19.75 µm |
Super 90s | 19.25 µm |
Super 100s | 18.75 µm |
Super 110s | 18.25 µm |
Super 120s | 17.75 µm |
Super 130s | 17.25 µm |
Super 140s | 16.75 µm |
Super 150s | 16.25 µm |
Super 160s | 15.75 µm |
Super 170s | 15.25 µm |
Super 180s | 14.75 µm |
Super 190s | 14.25 µm |
Super 200s | 13.75 µm |
Super 210s | 13.25 µm |
Super 220s | 12.75 µm |
Super 230s | 12.25 µm |
Super 240s | 11.75 µm |
Super 250s | 11.25 µm |
Record Grade
ロロピアーナ(Loro Piana)のRecord Bale(レコードベイル), Ermenegildo Zegna (エルメネジルドゼニア)のVellus Aureum(ヴェリュス オウレウム)などの世界記録クラスのメリノウールはSuper表記には対応していませんが、仮に拡張したとすると、Super 260,270となります。
Super S グレード | ミクロン上限 | 記録 |
---|---|---|
Super 250s | 11.25 µm | |
Super 260s(非公式の拡張) | 10.75 µm | Loro Piana(ロロ・ピアーナ)が落札したPyrenees Park農場のベールが2013年に10.3ミクロンのメリノウールで世界記録を樹立しました。 |
Super 270s(非公式の拡張) | 10.25 µm | 2023年にオーストラリアのPyrenees Park農場のSandlant(サンドラント)家族が10.2ミクロンのウールを生産し、この記録を更新しました。 |
Super 280s(非公式の拡張) | 9.75 µm | Zegnaが落札した9.4μm(2023)Pyrenees Park(ピレニーズ・パーク)農場で生産されたメリノウール。この農場は、Sandlant(サンドラント)家族なのでロロピアーナと同じベールを個別単位で評価した。※ただしロロピアーナ基準ではSuper 260-270と想定 |
Super 290s(非公式の拡張) | 9.25 µm | なし |
※Super 250s より細い規格はIWTO(国際毛織物機構)公式規格の対象外であり、マーケティング的または理論上の表現になります。
「Record Bale(レコード・ベイル)」と呼ばれる世界最高級のウールベールに使われるウールは、**赤ちゃんの羊(仔羊)の初毛(ファーストクリップ)に近いです。
必ずしも「赤ちゃんの羊の初毛(ファーストクリップ)」とは限りませんが、
記録的な細さ(例:10.6μmや9.4μm)を実現する場合、多くは**「極端に若い羊からのファーストクリップ」である可能性が非常に高い**です。
【1. ファーストクリップ(First Clip)とは?】
- 羊が生まれてから初めて刈られる羊毛。
- 一般的に最も繊維が細く、柔らかく、均質で、汚れが少ない。
- 仔羊(ラム)からのファーストクリップは、スーツ素材の中で「最上級の原料」とされる。
【2. Record Bale に用いられる羊毛の特徴】
特徴 | 内容 |
---|---|
極細繊維 | 9.4〜10.6ミクロン(通常のメリノより30〜40%細い) |
均質性 | 一本一本の繊維がほぼ同一径・長さで構成される |
汚染が少ない | 黄変、破毛、草などの混入が非常に少ない |
血統管理されたメリノ | 高地飼育、選抜繁殖された羊群が供給源 |
剪毛時の慎重さ | ファーストクリップ、またはそれに近い時期の可能性が高い |
【3. 実例:Zegna Vellus Aureum や Loro Piana Record Bale】
- ZegnaやLoro Pianaの受賞農場(例:WindradeenやRowensville)では、
記録級ベールのために特別な品種・年齢・食餌管理を受けた若い羊を育てています。 - ファーストクリップでなくても、非常に若い個体(12〜18ヶ月)からの刈毛である可能性が高く、 通常の成羊(3歳以上)よりはるかに細く柔らかい繊維になります。
【まとめ】
質問 | 回答 |
---|---|
Record Baleは赤ちゃん羊の初毛? | 必ずしもそうとは限らないが、そのような若齢・初期毛である可能性が高い |
なぜ細いのか? | 品種選抜・高地飼育・栄養管理・年齢制御により極細繊維を生産 |
どんな用途? | 年間数着のZegna、Loro Pianaなどの超限定スーツ、または博物館レベルの保存品 |
世界最高級ウール「Record Bale」のヴィンテージ別記録
ZegnaとLoro Pianaが世界のウール業界で競い合う「記録級ベール(Record Bale)」。本記事では、そのヴィンテージ別の記録と、農場、繊維の細さ(μm)、飼育環境、さらに推定kg単価までを整理しました。
🐑 Zegna Vellus Aureum Trophy
年度 | 繊維径(μm) | 農場名(国) | 飼育環境・特徴 | 推定kg単価 | 推定落札総額 |
---|---|---|---|---|---|
2023 | 9.4 | Windradeen(豪州) | 高地飼育、血統選抜メリノ、ファーストクリップ | ¥1,500,000/kg | 約¥12,000,000 |
2015 | 10.6 | Windradeen(豪州) | 記録更新時点、Zegna落札 | ¥1,000,000/kg | 約¥10,000,000 |
🧵 Loro Piana Record Bale Award
年度 | 繊維径(μm) | 農場名(国) | 飼育環境・特徴 | 推定kg単価 | 推定落札総額 |
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2023 | 10.2 | Pyrenees Park(豪州) | Sandlant家族、選抜羊群、ファーストクリップ | ¥1,500,000/kg | 約¥15,000,000 |
2022 | 10.7 | Visuela Farm(NZ) | Payne家族経営、持続可能放牧 | ¥1,200,000/kg | 約¥12,000,000 |
2015 | 10.3 | Pyrenees Park |
備考:上記の価格は報道・業界推計に基づいたものであり、公式発表がない限り確定値ではありません。1ベイルあたり約10kg〜12kgの構成で見積もっています。
もちろんです。以下に、Zegnaの9.4μmウール(2023年)がなぜ驚異的なのか、またLoro PianaのRecord Baleとの測定や評価の違いについて、日本語で整理して解説します。
🔬 なぜ9.4μmが驚異的なのか?
1. 繊維の細さが「常識外」
- 一般的なメリノウール:17~19ミクロン
- 高級品(Super 200s〜250s):11~13ミクロン
- 9.4ミクロンは、これらを大きく下回る極細繊維であり、
Super 280s〜290s相当(非公式)に位置付けられる。
👉 人間の髪の毛(60~100μm)の1/10以下の太さ。
2. Windradeen牧場の特殊な飼育技術
- オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の有名牧場。
- 特徴:
- 高度な品種選抜(遺伝的な超細番手)
- 高地での低ストレス環境
- 栄養制御とファーストクリップ(初めての毛刈り)
- 繊維の均一性・強度・純度が極めて高い。
3. 測定方法の厳密性
- Zegnaでは、**IWTO準拠のレーザースキャンやOFDA(光学分析法)**に基づいて測定。
- 通常、ミッドサイド(体側部)からの代表サンプルで測定。
- 測定環境(湿度・温度)も国際規格に準拠。
⚖️ Loro Pianaとの測定・審査の違いは?
基本的な測定技術は同じ(IWTO準拠)ですが、評価対象と目的が異なります:
項目 | Zegna(Vellus Aureum) | Loro Piana(Record Bale) |
---|---|---|
測定対象 | 単体のフリース(羊1頭分) | ベール(90〜110kgの大量ウール) |
評価観点 | 「究極の細さ・希少性」 | 「商業生産可能な最高品質」 |
必要量 | 約1〜2kg程度でも可 | フルベール単位で一貫した品質が必要 |
賞の意図 | 美術品的価値/技術の頂点 | 実用品としての安定性・信頼性 |
🧠 まとめ
- Zegnaの9.4μmは、おそらく世界で最も細いウールフリースのひとつであり、科学的にも飼育技術的にも奇跡的な水準。
- ただし、Zegnaは「1頭の羊の奇跡を称える賞」に近く、 Loro Pianaは「大量生産レベルでの究極品質を競う賞」である。
- よって、どちらが正しいということではなく、目的と哲学の違いといえる。
✅ **Loro PianaのRecord Bale(ベール全体)**の中には、
個別に見れば9.4μmやそれ以下の繊維をもつ羊毛も含まれている可能性が十分にある、ということです。
🔍 理由と背景
1. Record Baleは「平均」繊維径で評価される
- 例えば、2023年のRecord Bale受賞ベールは「10.2μm平均」。
- これは全体の平均であり、実際には「9.4μm〜11μmの繊維が混在」している可能性が高い。
- 特に若い羊のファーストクリップが混ざっていれば、9μm台も十分あり得る。
2. 「ベール」と「フリース」の違い
比較項目 | Zegna Vellus Aureum | Loro Piana Record Bale |
---|---|---|
評価対象 | 単体のフリース(羊1頭) | 完全なベール(複数頭から構成、90〜110kg) |
測定の対象範囲 | 代表部位のみ(体側部など) | 全体平均(不均質も含む) |
可能な最小μm | 単体で9.4μm(Windradeen実績) | 内部に9.4μm含まれていても平均は10.2μmなど |
実質的な最細可能性 | 最小値に近い記録が残る | 平均が記録され、最小値は表に出ない |
3. 品質の均質性と目標の違い
- Zegnaは**希少性や象徴性(最も細い繊維)**にフォーカス。
- Loro Pianaは**「量産でもここまでやれる」という実用品質の極限**に価値を置いている。
- よって、Record Baleの中には9.4μmどころか、9.2〜9.3μmも混在している可能性あり。ただし、それは測定対象外または平均に吸収されてしまう。
🧠 結論
✅ Loro PianaのRecord Baleの内部には、Zegnaの9.4μmと同等かそれ以上に細い繊維が含まれている可能性がある。
ただし、それは平均値としては現れず、Record Baleの評価基準(スケーラビリティと均一性)上、表面化しないだけなのです。
ベールとは
羊毛は基本的に「ベール(bale)」単位で落札・取引されるのが世界的な標準です。特にオーストラリア、ニュージーランドなどの主要生産国では、1ベール(bale)=約110〜200kgの圧縮ウール単位でオークション形式により取引されています。
🐑【ベール(bale)とは?】
項目 | 内容 |
---|---|
定義 | 羊毛を圧縮梱包した単位。ロール状または角型に成形される。 |
重量 | 通常 110〜200kg前後(Record Bale は 90〜120kg 程度が多い) |
用途 | 工場に送られて「洗浄 → カーディング → 紡績」工程へ |
取引単位 | オーストラリア、NZ、南米のウール市場ではbale単位が原則 |
💰【オークションでの取引】
- 世界最大のウール市場はAWEX(Australian Wool Exchange)。
- 出品:登録生産者・農場がベール単位で出品
- 落札者:Loro PianaやZegnaのようなバイヤーや商社がbale単位で落札
- 落札価格:グレード、繊維径(μm)、長さ、強度、色、混入率などにより決まる。
🏆【Record BaleやVellus Aureumの場合】
ブランド | 落札単位 | 特徴 |
---|---|---|
Loro Piana | 1ベール(Record Bale) | 平均μmやステープル長、純度、均一性などで評価され、年間1位の超高級ベールが選ばれる。 |
Zegna | フリースまたは小ロット単位 | 1頭の羊のファーストクリップなどを対象にすることもあり、「最も細い個体ウール」に着目。 |
📦【なぜbale単位で取引されるのか?】
- 品質・等級の管理がしやすい
- 物流(港、倉庫、船積)との互換性がある
- 工業紡績に適したロットサイズ
- オークションシステムに最適化されている