カシミア(Cashmere)は、**ヤギ科カプリン種(Capra hircus)の中でも、寒冷高地に生息する特定のカシミアヤギの冬毛(アンダーコート)**から採取される、極めて細く、柔らかく、保温性の高い天然動物繊維です。その生物的特性は、気候適応進化・構造・収穫方法・繊維機能の4つの観点で理解することができます。
🧬 1. 生物学的起源と分類
項目 | 内容 |
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動物種 | ヤギ(Capra hircus) |
品種例 | アラシャン、チベット、ネパール、ゴビ、ラダック等 |
生息地 | 中国(内モンゴル)、モンゴル、イラン、アフガニスタン、インド北部 |
生活環境 | 標高1,500〜5,000m、氷点下40℃にもなる寒冷乾燥地帯 |
👉 こうした環境に適応するため、ヤギは秋〜冬に向けて超細繊維のアンダーコートを生やし、春に自然脱落させます。
🧵 2. 繊維構造と物性
特性 | 内容 |
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繊維径 | 約12〜16.5μm(最高級で12〜13μm) |
繊維長 | 28〜45mm(品種・部位による) |
クリンプ(波状性) | 弱い:羊毛より撚り戻し性が少なく、滑らか |
スケール(表面の鱗状構造) | 小さく、重なりが少ないため、肌触りが極めて柔らかい |
空隙構造 | 微細な空気層を含み、保温性に優れる(断熱性が高い) |
👉 カシミアはウールよりも肌への刺激が少なく、チクチクしにくいことが科学的にも証明されています。
🌿 3. 生理学的役割(ヤギにとって)
- カシミアのアンダーコートは、
- ヤギにとっては、
- 体温調節のための断熱層
- 外毛(ガードヘア)とは別に存在
- モンゴルなどでは、手梳き(コーミング)により人為的に採取。
💡 4. 生産特性と持続可能性
項目 | 内容 |
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年間採毛量(1頭あたり) | 約150g〜300g(上毛と合わせて) |
高級グレードの採毛量 | 約50g〜80g(アンダーコートの中でも細く長い部分) |
頭数換算 | 1着のセーターに約3〜5頭分必要 |
持続可能性 | 現代では過放牧問題・土地荒廃も課題となり、Loro Pianaなどは再生型農業に投資中 |
🔍 比較:カシミア vs メリノウール
特性 | カシミア | メリノウール |
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繊維径 | 12〜16μm(超極細) | 10〜21μm(Super 80s〜250s, Over 250s) |
肌触り | 非常に柔らかく、光沢あり | 滑らか+クリンプで弾力あり |
弾性・復元性 | ✕ 弱い | ◯ 高い |
保温性 | ◎(中空構造で断熱性) | ◯ 良好 |
用途 | セーター、マフラー、上着中心 | スーツ全般(パンツにも使える) |
✅ 結論
カシミアは「高地環境に適応した生理進化の結晶」であり、その柔らかさ・保温性・希少性は繊維として唯一無二。
ただし、弾力や復元性は低く、スラックスなどの用途には不向きで、主に上半身衣類・コート・ストールで真価を発揮します。
以下に、**通常のカシミアと最高級のカシミア(特に内モンゴル産ホワイトカシミアなど)**を比較し、繊維径・原材料コスト・用途・耐久性・価格帯などの観点でマトリクスにまとめます。
🧵 通常のカシミア vs 最高級カシミア 比較マトリクス
項目 | 通常のカシミア | 最高級カシミア(例:内モンゴル産 Aグレード) |
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平均繊維径 | 約15.5〜16.5μm | 約13.0〜14.5μm(極上は12.5μm前後) |
繊維長 | 約30〜35mm | 約38〜42mm(長く、滑らか) |
原料産地 | 中国北部、インド、イラン、パキスタン等 | 内モンゴル・アラシャン高原・アルタイ地方 |
毛色 | 茶・グレー・黒が多い | ホワイト(白い原毛)(染色自由度が高く希少) |
原料価格(kg) | ¥10,000〜30,000 | ¥80,000〜150,000(ブランド原料はさらに高騰) |
加工性 | 柔らかいが毛玉・型崩れしやすい | 滑らかで毛玉になりにくく、光沢が出る |
耐久性 | やや弱い(2〜3年で劣化する製品も) | 長期使用可能(5〜10年) |
用途 | セーター、ストール、量販ジャケット | ビスポークジャケット、コート、カシミア100%スーツ |
製品価格帯(例) | セーター¥20,000〜50,000 | ジャケット¥800,000〜1,500,000 |
使用ブランド例 | UNIQLO、BEAMS、MACKINTOSHなど | Loro Piana, Kiton, Brunello Cucinelliなど |
✅ 特徴まとめ
区分 | 通常カシミア | 最高級カシミア |
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量産素材 | ◯(比較的入手しやすく価格も安定) | ✕(ごく限られた牧地、年ごとの個体差が大) |
投資価値 | ✕(劣化が早く、資産価値にならない) | ◯(手入れ次第で長寿命。高級衣料・資産化可能) |
耐久性 | ✕(スーツには基本不向き) | △(ジャケットには◎、スラックスには×) |
📌 結論
- 通常カシミア:やわらかさ重視、汎用的だが耐久性にはやや課題。
- 最高級カシミア:繊維が細く長く、光沢・手触り・型崩れしにくさが圧倒的に高い。
- スーツに使うには、スラックスを除いたジャケットやコートがベスト用途。
- ビスポークの世界では、内モンゴル産13μm前後のホワイトカシミアが最高峰とされ、Loro PianaやKitonが使用。