リーマン幾何からアインシュタイン一般相対性理論の展開
🔷 一般相対性理論とリーマン幾何の関係
**アインシュタインの一般相対性理論(1915年)**は、以下の主張に基づいています:
「重力は力ではなく、時空の曲がり(幾何)である」
つまり、重い物体があるとその周囲の**時空(space-time)**が曲がり、他の物体はその曲がった時空に沿って運動する=これが重力の正体、というわけです。
🔷 リーマン幾何が登場する理由
重力を「時空の曲がり」として記述するには、曲がった空間を記述できる数学が必要です。それこそが、1854年にベルンハルト・リーマンが構築した:
リーマン幾何(Riemannian Geometry)
➜ 空間の各点に局所的な内積(距離)構造を与える理論
ただし、時間軸を含むため、実際には「リーマン幾何の拡張版」である:
ローレンツ多様体(Lorentzian manifold)
➜ 計量テンソルの符号が異なる(+−−−など)
🔷 数式で見る:一般相対性理論の構造
● 1. 時空の基本構造(計量テンソル)
4次元時空(3次元空間 + 1次元時間)上に計量テンソル gμν {\mu\nu} を定義します:
ds2=gμν(x) dxμdxν
- ds2:事象間の時空間隔(光や物体の移動距離)
- gμν:時空がどれだけ曲がっているかを表す「重力場」
● 2. 時空の曲がり:リーマン曲率テンソル
リーマン幾何と同様、時空の曲率は以下のリーマン曲率テンソルで与えられます:
R σμνρ
さらに、これから次の2つを構成:
- リッチテンソル: Rμν=Rρμρν
- スカラー曲率: R=gμνRμν
● 3. アインシュタイン方程式(Einstein Field Equations)
この理論の中心となる重力の方程式がこちら:
\[R_{\mu\nu} – \frac{1}{2} R g_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4} T_{\mu\nu}\]- 左辺:**時空の曲がり(幾何)**を記述
- 右辺:エネルギー・運動量テンソル Tμν(物質やエネルギーの分布)
この式の意味は簡単に言うと: 「エネルギーがあるところに時空の曲がりが生じ、その曲がりが物体の運動を支配する」
🔷 リーマン幾何が支える一般相対論のポイント
概念 | リーマン幾何との関係 |
---|---|
時空の構造 | 多様体+計量テンソル gμν(リーマン計量の応用) |
重力場 | 曲率テンソル(リーマン曲率テンソル)で定式化 |
物体の運動 | **測地線(geodesic)**に沿って動く(最短距離の一般化) |
ブラックホール、宇宙膨張 | 解として得られる(シュワルツシルト解、フリードマン方程式など) |
🔚 まとめ:なぜリーマン幾何が本質なのか?
アインシュタインが言ったとされる言葉:
「私はリーマンの幾何学に従っただけだ」
- 彼の発想の天才性は「重力=曲率」という直観ですが、
- それを数学的に構築し、定式化したのはリーマンの理論だったのです。
🔷 ステップ0:アインシュタインの問題意識
「重力とは何か? ニュートンのような即時的な“引力”ではなく、時空が曲がることではないか?」
この「曲がり」を定式化する数学が必要 → リーマン幾何に出会う
🔷 ステップ1:リーマンの構成(曲がった空間の数学)
● 概念:リーマン計量 gμν(x)
ds2=gμνdxμdx
- 空間の距離や角度の定義。
- アインシュタインはこれを**「重力場の本体」**とみなした。
● 曲率テンソル:空間の「ねじれ・曲がり」
- リーマン曲率テンソル Rρσμν \rho_{\ \sigma\mu\nu}:最も一般的な曲率の記述。
- リッチテンソル Rμν:上記から縮約して得る、より扱いやすい2階テンソル。
- スカラー曲率 R:さらに縮約した1個のスカラー値。
🔷 ステップ2:アインシュタインが要求した「物理的条件」
アインシュタインは、以下のような「物理的要件」を課しました:
① 一般共変性(一般相対性原理)
- どんな座標系でも形式が同じ方程式であること。
② 質量保存・エネルギー保存の成立
- テンソルの保存則: ∇μTμν=0
③ ニュートン重力理論の極限で再現
- 弱い重力・低速運動(=ニュートン近似)において、 ∇2ϕ=4πGρ \rho を再現する必要がある(ポアソン方程式)
🔷 ステップ3:それらをすべて満たす「唯一の形」
この物理的要件をすべて満たす方程式を探す中で、アインシュタインは最終的に以下の構造にたどりつきました:
\[R_{\mu\nu} – \frac{1}{2} R g_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4} T_{\mu\nu}\]❶ 左辺:時空の曲がり(幾何)
- リッチテンソル Rμν:局所的な曲率
- スカラー曲率 R:全体の曲がりの平均
- gμν:重力場そのもの(=距離の定義)
この組み合わせでこそ、保存則を満たし、ニュートンの重力方程式に一致する
❷ 右辺:物質の分布(物理)
- エネルギー・運動量テンソル Tμν:
物質、エネルギー、圧力、運動などをすべて含むテンソル。
🔷 なぜ係数が「8πG / c⁴」なのか?
これはアインシュタインが最終的に「ニュートンの万有引力を極限として得るため」に定めたものです。
● 弱重力近似(低速、弱い重力)では…
- アインシュタイン方程式は次のように縮約され: ∇2ϕ=4πGρ
- これと整合するために、係数がちょうど: 8πG/c4でなければならないことが導かれます。
🔚 まとめ:なぜこの式になるのか?
要求 | 構成 |
---|---|
空間の曲率を表したい | リーマン幾何: Rμν,R, gμν |
保存則を守りたい | テンソル構造+共変微分: ∇μTμν=0 |
ニュートン力学の近似を含みたい | 弱重力近似で ∇2ϕ=4πGρ |
結果としてこの形になる |
この一つの式が宇宙の膨張、ブラックホール、重力波、時間の遅れといった、すべての重力現象を説明してしまうのです。