ユニタリ群とは|Unitary Group

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ユニタリ群とは|Unitary Group

ゲージ理論において登場するユニタリ群(U(n) や SU(n))は、 ゲージ対称性 を表すリー群(Lie group)の一種であり、特にヤン・ミルズ(Yang–Mills)理論において基本的な役割を果たします。

ゲージ理論では、素粒子の相互作用が場のゲージ対称性という概念により記述されます。このゲージ対称性を数学的に実現するために使われる群が「ユニタリ群」(U(n))または「特殊ユニタリ群」(SU(n))です。

❶ ユニタリ群(U(n))と特殊ユニタリ群(SU(n))の違い

ゲージ理論で使われる群は主に 特殊ユニタリ群 SU(n)です。これに対してユニタリ群 U(n)は、行列式の制限を持ちませんが、SU(n)は行列式が必ず1となります。

  • ユニタリ群(U(n)):

U(n)={ U∈GL(n,C)∣U†U=I }

  • 特殊ユニタリ群(SU(n)):

SU(n)={ U∈U(n)∣det⁡(U)=1 }

物理では通常、対称性を考える上で「全体の位相(global phase)」は観測に影響しないため、行列式を1に制限した SU(n) の方が使われます。

❷ ゲージ理論におけるユニタリ群の意味

ゲージ理論は場の理論であり、「局所的な対称性」を持つ理論のことです。これは、空間の各点で 場の位相を独立に変換 しても理論の物理的内容が変わらないことを意味します。

この「局所的な位相変換」は数学的に「ユニタリ群」または「特殊ユニタリ群」を使って表現されます。

例えば、電子の電磁相互作用(量子電磁力学, QED)の場合、ゲージ群は最も単純なユニタリ群である: U(1)

を使います。この場合は「複素位相の回転(フェーズ変換)」という単純な操作になります。

一方、強い相互作用(クォーク同士を結びつける力)を記述する 量子色力学(Quantum Chromodynamics, QCD) では、ゲージ群として特殊ユニタリ群: SU(3)

を使います。この場合、フェーズ変換はより複雑で、クォークは「赤、緑、青」という3つの「色」を持つため、3次元複素空間での回転になります。

❸ ヤン・ミルズ(Yang–Mills)理論との関係

ヤン・ミルズ理論とは、非可換ゲージ群を持つゲージ理論の総称であり、1954年にヤン(楊振寧)とミルズが導入しました。ここでの非可換とは、群の元の掛け算の順番を変えると結果が異なる(AB≠BA)ことを指します。

  • アーベルゲージ理論 (Abelian Gauge Theory)
    群:U(1)(可換)
    例:量子電磁力学 (QED)
  • 非アーベルゲージ理論(Non-Abelian Gauge Theory, Yang–Mills理論)
    群:SU(n)や SO(n)(非可換)
    例:量子色力学 (QCD), 弱い相互作用 (Weinberg–Salamモデル)

つまり、ヤン・ミルズ理論とは、非アーベルゲージ群(特に SU(n) など)を持つゲージ場理論のことです。

特に:

  • 量子色力学 (QCD) はゲージ群として SU(3) を採用したヤン・ミルズ理論です。
  • 電弱統一理論 (Weinberg–Salamモデル) は SU(2)×U(1)というゲージ群を持つヤン・ミルズ理論の一種です。

❹ なぜユニタリ群なのか?

ユニタリ群が好まれるのは、物理的な量子系の状態が複素数の波動関数で表現され、それらの位相の変換を自然に表現できるためです。さらに、ユニタリ群は内積(確率や確率振幅の保存)を自然に保つため、量子理論との相性が非常に良いです。

特に、特殊ユニタリ群 SU(n)は次の理由で頻繁に使われます。

  • ゲージ理論においては、「全体の位相因子」は物理的に無意味なので、U(n)より SU(n)が自然に登場します。
  • 対称性を担う場(ゲージ場)を、ゲージ群のリー代数の生成子で展開し、ゲージ粒子(フォトン、グルーオン、W/Z粒子)を自然に導入できます。

❺ ヤン・ミルズ理論におけるゲージ群の例まとめ:

理論相互作用ゲージ群
QED(量子電磁力学)電磁相互作用U(1)
弱い相互作用 (Weinberg–Salam)弱い相互作用SU(2)×U(1)
QCD(量子色力学)強い相互作用SU(3)

ヤン・ミルズ理論は非アーベル群(主に SU(n))を用いたゲージ理論を指すため、QCDや弱い相互作用は典型的なヤン・ミルズ理論と言えます。

✅ 結論(まとめ):

  • ユニタリ群(U(n))と特殊ユニタリ群(SU(n))はゲージ理論の「局所位相対称性」を記述するために使用されます。
  • 特に 特殊ユニタリ群 SU(n)がよく用いられます。
  • ヤン・ミルズ理論とは非可換ゲージ群(特に SU(n))を持つゲージ理論を指します。
  • QCD(量子色力学)や弱い相互作用の理論は、ヤン・ミルズ理論の重要な具体例です。

ゲージ理論において、ユニタリ群は量子力学的な「内積保存性」と「位相変換の自由度」を自然に取り込んでいるため、物理学で重要な役割を担っています。