スピンとは何か|spin
素粒子物理学において電子の「上向きスピン(spin-up)」と「下向きスピン(spin-down)」とは、電子の内在的な量子状態(固有の性質)の一つで、より具体的には電子のスピン角運動量の量子数に対応しています。
1. スピンとは何か
- スピン(Spin) とは、素粒子が内在的に持つ量子力学的な角運動量(自転に似ているが、実際の「回転」ではない)を指します。
- 電子のスピン量子数は、フェルミ粒子(フェルミオン)であるため、1/2 という値をとります。
- この1/2のスピンを持つ粒子は、スピンの方向(z軸に対する射影) として「+1/2」または「-1/2」の2種類の状態を取ることができます。これが日常的にいう「上向きスピン」・「下向きスピン」です。
2. 上向きスピンと下向きスピン
- 電子のスピンは量子力学の規則により、特定の方向(例えば磁場を加えた方向 = z軸方向)に対して2つの離散的な値のどちらかのみをとります。
- 上向きスピン (Spin-up)
z方向へのスピンの成分が「+ħ/2」(ħは換算プランク定数)となる状態。 - \[S_z = +\frac{ħ}{2}\]
- 下向きスピン (Spin-down)
z方向へのスピンの成分が「-ħ/2」となる状態。 - \[S_z = -\frac{ħ}{2}\]
- 上向きスピン (Spin-up)
- つまり、「上向き」「下向き」という表現は、磁場や基準方向に対する相対的なスピン角運動量の向きを指しています。
3. 素粒子論での扱い
素粒子論的に表現すると、電子のスピン状態は、波動関数の中の**スピノル(Spinor)**という2成分ベクトルで記述されます。
例えば、z軸方向を基準として取った場合、
\[\text{スピンアップ状態} = \begin{pmatrix}1 \\ 0\end{pmatrix}, \quad \text{スピンダウン状態} = \begin{pmatrix}0 \\ 1\end{pmatrix}\]このようにスピン状態は、数学的にはベクトル(2成分スピノル)で表現される量子状態であり、古典的な「粒子が物理的に回転している」というイメージでは捉えられない純粋に量子力学的な性質です。
4. なぜスピンが重要か?
- スピンは電子などの素粒子にとって本質的な性質であり、磁場中で異なるエネルギー状態をとることで磁気的な相互作用の原因となります。
- また、スピンの向きが変化すると、エネルギー状態が変わり、電子が磁性を帯びたり、逆に磁性を帯びなくなったりします。これがスピンエレクトロニクスの基礎となる現象です。
まとめ
- 電子の「上向き」「下向き」スピンとは、電子の固有スピン角運動量の量子状態の区別であり、特定の方向に対して量子化された二つの可能な状態のことを指します。
- 素粒子論的には、電子は2成分のスピノルという数学的な量で表され、その2つの成分がスピンの上下方向の量子状態に対応しています。