Entscheidungs Problem|チューリングの「停止問題の非決定性」ZFC形式証明
チューリングの「停止問題の非決定性」証明をZFC形式で定義・構成・証明する構造を丁寧に構築していきます。ZFCはすべての対象を集合として扱うため、チューリングマシン(TM)や入力、停止性の判定などもすべて集合で再定義します。
✅ ZFCにおける停止問題の証明構造
【Step 1】チューリングマシンのZFC的定義
▸ 機械そのもの(TM)を集合として構成
チューリングマシン MM を次の7つの集合のタプルとして定義:
M=(Q,Σ,Γ,δ,q0,qaccept,qreject)
- Q = 有限集合(状態の集合) → ZFC内の有限集合
- Σ\Sigma = 入力アルファベット(空白除く) → 有限集合
- Γ\Gamma = テープ記号の集合(Σ⊆Γ) → 有限集合
- δ\delta = 遷移関数:
δ:Q×Γ→Q×Γ×{L,R}
→ 関数は集合として表現(写像のグラフ)
- q0, qaccept,qreject∈ Q → 集合要素として定義
【Step 2】入力の定義と計算の状態遷移
入力 wは有限列(=自然数から記号への写像):
w:N<n→Σ
マシン状態を「構成(構成状態)」の集合として記述:
C=(q,テープ内容 t:Z→Γ,ヘッド位置 h∈Z)
状態遷移はZFC内で再帰的に定義可能:
- 初期状態:C0=(q0,t0,h0)
- 次状態:Ci+1=Apply(δ,Ci)
【Step 3】停止判定関数の定義(Halting Function)
停止問題:
HALT(M,w)={true if TM M halts on input w, falseotherwise\text{HALT}
ZFC的な命題として定義する:
ϕ(M,w):=∃t∈N, TM M halts on w in t steps
→ HALTは「停止性判定問題」関数: (M,w)↦ϕ(M,w)(M, w)
→ この関数がZFC内で定義可能か? いいえ:次で反証される
【Step 4】停止判定関数の存在を仮定(Reductio構造)
仮定:ZFC内に「停止判定関数」H(M,w)が存在し、常に正しく判定できるとする:
∀M,w,H(M,w)={1if M halts on w, 0otherwise
【Step 5】反証構成:停止自己否定マシン DD
ZFC内で次のようなマシン DD を定義:
D(M)={loop foreverif H(M,M)=1, haltif H(M,M)=0
→ D は「Mが自分自身に停止するなら無限ループ、停止しないなら停止」という逆写像
【Step 6】自己適用による矛盾構成
考える対象:D(D)
- H(D,D)=1(= D(D)は停止する)なら → D(D)は無限ループ → 停止しない → 矛盾!
- H(D,D)=0(= D(D)は停止しない)なら → D(D)は停止する → 矛盾!
→ いずれの仮定も矛盾を導く
✅ 【結論】ZFCでの証明形式
ZFC内で停止判定関数 H(M,w)H(M, w) を定義すると、
矛盾を導く構成 D(D)を同じZFC内で構成できてしまうため:
⊢ZFC¬∃H:(TM,Input)→{0,1}, such that H always correctly predicts halting
つまり:
ZFCは「停止問題は解決不能である」ことを形式的に証明できる。
✅ ZFCでの停止問題証明の特徴まとめ
構成要素 | ZFC内の定義 |
---|---|
チューリングマシン | 有限集合の組として |
入力文字列 | 有限写像 |
状態遷移 | 再帰的定義で記述 |
停止関数の仮定 | 存在を前提に |
反証構成 | 自己適用関数 D |
導かれる結論 | ZFC内で「決定不能性」が証明される |
「決定可能性(=Yes/Noをいつか判断できること)」があっても、
「計算困難性(=それを“効率よく”判断できるかどうか)」は別問題であり、証明されていない。
停止問題は「決定不可能性」を持つが、
P≠NP問題は「決定可能であるが効率的計算が不可能かもしれない」問題であり、
その「計算困難性」はいまだ正式には証明されていない(=P≠NPは未解決)。
🧩【違いの本質】決定可能性 vs 計算困難性
項目 | 停止問題 | P≠NP問題 |
---|---|---|
問題の型 | 決定可能か?(Yes/No を答えられるか) | 計算は可能だが“速く”できるか? |
停止問題 | 決定不可能(一般に Yes/No を出せない) | NP問題は決定可能(試せば必ず答えにたどり着ける) |
計算時間 | 無限になる場合あり | 解けるが時間がかかりすぎるかもしれない |
証明状態 | 証明済(Turing 1936) | 未証明(P≠NP 問題) |
🧠【なぜこれが重要なのか?】
- 「解があること」と「それを速く見つけられること」は全く別の問題
- 数学的には:
- 停止問題:解の存在が定義されない → 計算不可
- P≠NP問題:解の存在は保証される → 計算可能だが高速とは限らない
🔁 比喩的に言えば
問題 | たとえ |
---|---|
停止問題 | ある迷宮に「ゴールが存在するかどうか」すら不明。探索が永遠に続く可能性あり |
P≠NP問題 | ゴールがあることは保証されているが、**一瞬で見つけられるとは限らない。**最悪、全体を試す必要がある |
🧩 数理的整理
▸ 停止問題:
- H(M,w)∈{0,1}を計算するアルゴリズムは存在しない
→ 解そのものが“定義不可能”な場合がある
▸ P vs NP:
- NP問題 Lに対して:
- 「証明」は多項式時間で検証できる(=定義可能)
- でも、「証明そのものを生成できるか」は未証明
✅ あなたの問いを再表現すると:
解が“定義されていて存在する”としても、
それを“現実的に(多項式時間で)構築できる”ことは別問題であり、
その「構築困難性」はP≠NP問題として未証明である。
🚀 発展的視点
この違いは、計算理論の三層構造でとらえられます:
レベル | 名称 | 意味 |
---|---|---|
レベル0 | 存在論的可能性(Undecidability) | 解が存在するかどうかすら判定できない |
レベル1 | 構成可能性(Constructibility) | 解は存在し、構成はできる(全探索で) |
レベル2 | 実行可能性(Efficiency) | 解を“効率的に”構成できるか?(P時間内) ← P vs NP問題 |
→ チューリングはレベル0を打ち立てた
→ P≠NP問題はレベル2の限界を問うている
📌 まとめ
✔ チューリングの停止問題は「解の存在すら判定不可能なケースがある(決定不可能性)」
✔ P≠NP問題は「解はあるが、計算に多項式時間でたどり着けるかが未解決(計算困難性)」
✔ よって、決定可能性がある問題でも、その「計算困難性」は証明を要し、未解決のままである。