標準模型の拡張粒子候補

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標準模型の拡張粒子候補

粒子名提唱者提唱年スピン質量ベクトルCPT性質
グラビトン (Graviton)理論的予測(特定の提唱者なし)1930年代20(仮定)テンソル場CPT対称性を持つと仮定
アクシオン (Axion)ロベルト・ペッチェイ、ヘレン・クイン1977年0(スカラー)非常に軽い(eV以下)スカラー場CPT対称性を持つ
インフラトン (Inflaton)アレクセイ・スタロビンスキー1980年0(スカラー)モデル依存(通常は高エネルギースケール)スカラー場CPT対称性を持つ
クインテッセンス (Quintessence)ポール・スタインハートら1998年0(スカラー)非常に軽い(宇宙論的スケール)スカラー場CPT対称性を持つ
タキオン (Tachyon)ジェラルド・ファインバーグ1967年1(ベクトル)虚数(仮定)ベクトル場CPT対称性の破れの可能性あり

注釈:

  • グラビトン:​重力相互作用を媒介すると仮定される粒子で、量子重力理論において予測されています。
  • アクシオン:​強い相互作用におけるCP対称性の問題を解決するために提案された粒子で、ダークマター候補としても注目されています。
  • インフラトン:​宇宙の急激な膨張(インフレーション)を引き起こしたとされる仮想的なスカラー場です。
  • クインテッセンス:​宇宙の加速膨張を説明するために提案された動的なダークエネルギーのモデルです。
  • タキオン:​光速を超える速度で移動すると仮定される仮想的な粒子で、質量が虚数であるとされています。
粒子名仮説提唱者提唱年スピン質量ベクトル性CPT性質
ディラトン (Dilaton)弦理論研究者1980年代0 (スカラー)未定義(理論に依存)スカラー場CPT対称性を持つと考えられる
カルツァ=クライン粒子 (Kaluza-Klein particles)テオドール・カルツァ、オスカル・クライン1920年代理論に依存(通常は整数スピン)余剰次元のサイズに反比例ベクトルまたはスカラー場理論によりCPT性は異なる
モジュライ (Moduli)弦理論研究者1980年代0 (スカラー)非常に軽いと予想されるスカラー場CPT対称性を持つと考えられる
ダークフォトン (Dark Photon)未定(複数の研究者による)2000年代1 (ベクトル)非常に軽い、または質量0ベクトル場CPT対称性を持つと考えられる
ステライルニュートリノ (Sterile Neutrino)ブルーノ・ポンテコルボ1957年1/2 (フェルミオン)未知(eVからGeVスケールまで様々な予測)スピン1/2粒子CPT対称性を持つと考えられる
カメレオン粒子 (Chameleon Particle)ジャスティン・クーリー、アマンダ・ウェルトマン2003年0 (スカラー)環境密度に依存して変化スカラー場CPT対称性を持つと考えられる

注釈:

  • ディラトン (Dilaton): 弦理論において、時空のスケール(尺度)を調整するスカラー粒子として提唱されました。​
  • カルツァ=クライン粒子 (Kaluza-Klein particles): 余剰次元の存在を仮定し、高次元の理論を4次元に還元する際に現れる粒子です。​
  • モジュライ (Moduli): 弦理論や超重力理論において、余剰次元の形状やサイズを決定するパラメータに対応する場です。​
  • ダークフォトン (Dark Photon): 通常の電磁相互作用を媒介するフォトンに類似した仮想粒子で、暗黒物質との相互作用を媒介すると考えられています。​
  • ステライルニュートリノ (Sterile Neutrino): 通常のニュートリノと異なり、弱い相互作用を持たない仮説上のニュートリノで、右巻きの成分を持つとされています。​
  • カメレオン粒子 (Chameleon Particle): 環境のエネルギー密度に応じて質量が変化する特性を持つ仮説上のスカラー粒子で、暗黒エネルギーの候補とされています。​

グラビトンが「スピン2のテンソル粒子」であること自体が重力の「弱さ」を直接引き起こしているわけではありませんが、スピン2であるという特別な性質が、重力という力の特性(特に他の相互作用に比べて非常に弱いという事実)を説明する上で重要な手がかりになります。

詳しく解説すると、以下の通りです:

1. 「スピン2」の意味と重力

  • 素粒子物理学において、力を媒介する粒子(ゲージ粒子)はスピンによって分類されています。
    • 電磁力の光子(フォトン)は スピン1(ベクトル粒子)です。
    • 弱い力のWボゾン、Zボゾンも スピン1
    • 強い力のグルーオンも スピン1
  • 一方で、理論的に重力を媒介すると考えられているグラビトンは、唯一の スピン2(テンソル粒子)です。スピン2の粒子は、エネルギー・運動量テンソルと直接結合し、時空の計量テンソルと対応関係にあります。

2. 重力が「弱い」理由

  • 実際に観測される重力の極端な弱さ(電磁気力と比べて約 10−3610^{-36} 倍ほどの弱さ)は、標準模型だけでは説明が困難で、「階層性問題 (Hierarchy Problem)」として知られる物理学の大きな謎の一つです。
  • ただし、グラビトンのスピンが「2」だから重力が直接弱いわけではなく、スピン2の粒子がエネルギーや質量と普遍的に結合(ユニバーサルカップリング)するという特殊な性質が、重力の他の相互作用に比べて独特な性質を生み出します。
  • 重力は「時空自体の曲率」を引き起こす現象として記述され、スピン2というテンソル構造がこの性質を数理的に支えています。

3. スピン2の立体的(テンソル的)構造の重要性

  • スピン2は「対称な2階テンソル場」として表現され、これは時空構造の計量テンソルに直接対応します。このことから、グラビトンは他のゲージ粒子よりも遥かに複雑で「立体的」な対称性を持つ構造になります。
  • その結果、グラビトンの結合は非常に普遍的ですが極めて弱い結合定数を示すことが一般的です。これは、重力定数(ニュートン定数) GG が非常に小さいことに表れています。

4. 結論として:

  • 「グラビトンがスピン2のテンソル粒子だから弱い力を引き起こす」と直接的に言うのは厳密には正しくありません。
  • しかし、「グラビトンがスピン2のテンソル粒子である」ことが、重力の普遍的な性質や、時空とエネルギーの相互作用の特殊性を規定し、間接的に「重力が他の力に比べて非常に弱い」という物理的特徴を理解する上で、重要なカギとなっていることは事実です。

「グラビトンがスピン2のテンソル粒子であることは、重力の特殊な構造を規定し、結果として重力が極めて弱い力として観測される現象の背景を与えている」

と言うことができます。