アーベル賞|Niels Henrik Abel
ニールス・アーベル(Niels Henrik Abel, 1802–1829)は、ノルウェーの数学者です。彼は26歳という若さで結核により亡くなりましたが、その短い生涯の中で数学界に多大な影響を与えました。彼は26歳という若さで結核により亡くなりましたが、その短い生涯の中で数学界に多大な影響を与えました。
アーベル賞(Abel Prize)は、数学界における最高の栄誉の一つであり、「数学界のノーベル賞」とも呼ばれます。
【アーベル賞の歴史的成立過程】
1. ノーベル賞との関係
- ノーベル賞には数学部門がありませんでした(理由には諸説あり)。
- そのため、数学界では長らく「ノーベル賞に匹敵する賞」が存在しませんでした。
2. ノルウェーの数学者ニールス・アーベル
- ノルウェーの天才数学者、**ニールス・アーベル(Niels Henrik Abel, 1802–1829)**の業績を称える目的で、アーベル賞は設立されました。
3. 設立の経緯
- 1902年:ノルウェーの数学者ソフィウス・リー(Lie)がノーベル賞に刺激され「アーベル賞」設立を提案。
- しかし、第一次世界大戦・政治的事情で実現せず。
- 2001年:アーベルの生誕200周年を記念して、ノルウェー政府が設立を決定。
- 2003年:第1回アーベル賞が授与される。
【アーベル賞 歴代受賞者(2003年〜2024年)】
代表的な受賞者を簡単に紹介します。
年 | 受賞者 | 業績概要 |
---|---|---|
2003 | ジャン=ピエール・セール(フランス) | 数学の広範な分野への貢献 |
2004 | マイケル・アティヤ、アイジー・シンガー | 幾何学と解析学の橋渡し |
2006 | レナード・カールソン | 非線形偏微分方程式の理論 |
2009 | ミハイル・グロモフ | 幾何学的群論と距離幾何学 |
2010 | ジョン・テイト | 数論と代数幾何の深い成果 |
2014 | ヤコブ・パリス、アレクサンダー・グロセンディーク(故人) | 数理論理学の礎 |
2018 | ロバート・ラングランズ | 「ラングランズ・プログラム」の提唱者 |
2022 | デニス・サリヴァン | トポロジーと力学系理論への貢献 |
2023 | ルイス・カッファレリ | 偏微分方程式と自由境界問題 |
2024 | ミカエル・カピテリ(仮) | ※2024年受賞者は2025年3月時点ではまだ発表されていません(例として記載) |
「アーベルは数学者たちに500年分の仕事を残してくれた」という言葉は、フランスの数学者シャルル・エルミート(Charles Hermite)がニールス・ヘンリック・アーベルの業績に対して称賛を込めて語ったとされる名言です。この「500年分の仕事」というのは比喩的な表現で、以下のような意味が込められています。
【意味・背景】
- 極めて先進的なアイデアの数々
- アーベルの研究は当時の数学の水準を遥かに超えており、彼が残した理論や定理の多くは、後世の数学者によって何十年、何百年もかけて理解・発展・応用されていきました。
- 未開拓分野の開拓者
- 彼は楕円関数やアーベル関数、アーベル群、アーベル多様体など、現在の数学の基盤となる多くの分野を切り開いた先駆者でした。
- 研究対象の広さと深さ
- 数学における代数、解析、関数論など多分野にわたり、彼の研究成果はどれも深く、長期的な探求が必要とされるものでした。
【例】
- 五次方程式の代数的不解決の証明(アーベル=ルフィニの定理)
- アーベル変換、アーベル積分、さらには
- **アーベル群(可換群)**という代数学の基本構造
これらはすべて数学の根幹を成すもので、アーベルの論文は19世紀の他の数学者(ガロアなど)にも多大な影響を与えました。
【アーベルの主な業績】
1. 5次方程式の一般解の不可能性を証明
- 高校で習う2次・3次・4次方程式には代数的な解法(√や+−×÷で書ける解)が存在しますが、
- アーベルは「5次以上の代数方程式には、一般にはそういった解が存在しない」ことを証明しました(1824年)。
- これは「アーベルの不可能性定理」と呼ばれ、ガロア理論の礎にもなります。
2. アーベル関数・アーベル群・アーベル多様体の創始
- アーベルは、楕円関数や超幾何級数の研究を通じて、新しい種類の関数(アーベル関数)や構造(アーベル群)を定義。
- その成果は後のリーマン幾何学や代数幾何にもつながっていきます。
3. アーベル群(可換群)の命名元
- 群論において、交換法則(a × b = b × a)を満たす群を「アーベル群」と呼びます。
- この名前は、彼の研究がその性質の理解に大きく貢献したことに由来します。
【アーベルの人生】
- 非常に短命で、26歳の若さで肺結核により死去。
- 生前は貧困に苦しみましたが、死後に評価が急速に高まりました。
- 数学者ガウスやリウヴィルも、彼の業績を「天才的」と絶賛。
【アーベルが残した主な論文・著作】
1. 《Mémoire sur les équations algébriques où on démontre l’impossibilité de la résolution de l’équation générale du cinquième degré》
(邦訳:代数方程式に関する論文―5次方程式の一般解が存在しないことの証明)
- 発表年:1824年(オスロで発表)
- 内容:
- 一般5次方程式には代数的な解法(根号など)では解けないという「不可能性」を世界で初めて厳密に証明。
- 後に「アーベルの不可能性定理」として知られる。
2. 《Recherches sur les fonctions elliptiques》(楕円関数に関する研究)
- 発表年:1827年(パリの学術誌に提出)
- 内容:
- 楕円積分とその逆関数(楕円関数)の理論を大きく発展させる。
- アーベルの死後、リーマンやヤコビによって発展。
3. 《Oeuvres Complètes de Niels Henrik Abel》(アーベル全集)
- アーベルの死後、彼の友人や数学者たちが彼の論文を収集・編纂し、一冊の全集として出版。
- これにより、彼の業績が広まり、後世に多大な影響を与えました。
【備考:論文の特徴】
- 多くがフランス語またはラテン語で書かれている(当時の学術言語)。
- 論文の構成は簡潔で明快だが、当時としては非常に高度で抽象的。
- 同時代の多くの数学者(ガウスなど)に衝撃を与える内容だった。