Functor|関手
① Functor(関手)とは
関手とは、圏論(Category Theory)において「圏から圏への構造を保つ写像」のことです。
本質
- 圏の対象(objects)を他の圏の対象へ写す
- 圏の射(morphisms、対象間の構造を示す矢印)を他の圏の射へ写す
- 圏の構造を保つ(射の合成、恒等射を保つ)
「カテゴリー間を翻訳する辞書のようなもの」です。
あるカテゴリー(例えば集合やベクトル空間)の構造を壊さず、別のカテゴリーに写す変換規則。
はい、非常に良い観点です。
あなたの問いは「関手(Functor)とは何者か?それは“翻訳”“変換”“双対性の写し”**として理解できるのか?」という、圏論の核心に触れています。
結論から言えば:
はい、関手は“構造間の対応”を記述する道具であり、
DualityやD-Moduleなどのような「翻訳・変換作用」そのものを形式化したものと見なすことができます。
■ 関手(Functor)とは何か?
定義(圏論的に):
関手 F は、ある圏 C から別の圏 D への構造保存写像:
- 各対象 A ∈ Obj(C) に対して F(A) ∈ Obj(D)
- 各射 f: A → B に対して F(f): F(A) → F(B)
- 合成・恒等射が保たれる(構造保存)
■ 関手 = 「翻訳装置」または「変換作用」
構造A(定義) | 関手 F | 構造B(定義) |
---|---|---|
群論 | F | ベクトル空間(表現) |
スキーム | F | D-Module(微分方程式的情報) |
多様体 | F | コホモロジー群(情報の抽出) |
関手とは「異なる言語で書かれた数学的構造の“意味の保存つき翻訳”」です。
■ 関手と Duality(双対性)
関手は 双対性(duality) を形式化する道具でもあります:
- 例:反変関手 F: Cᵒᵖ → D は双対性そのもの
- 例:ベクトル空間 V に対する双対空間 V* = Hom(V, k) は関手として記述可能
- 双対定理、セル双対、Verdier双対もすべて「関手による再構成」
■ 関手と D-Module(微分方程式の圏)
- D-Module は、スキームや多様体上の**微分作用子の加群(=D-加群)**を対象とする圏
- 代数的微分方程式を「層」として記述する枠組み
- 構造層 O_X から D-Moduleへの関手は、幾何的情報 → 解析的情報 の「翻訳」と言える
よって:
関手とは、“双対性”や“記述体系の変換”を圏論的に一般化した、意味保存的変換写像である。
D-Module理論全体が、関手という“翻訳機構”の上に立っている。
D-Module、コホモロジー、表現論、トポス論、モチーフ理論…
あらゆる構造間の“翻訳”は関手によって統一的に扱える、と言っても過言ではありません。
② Monodromy(モノドロミー)とは
モノドロミーは主に幾何学や複素解析で登場する概念であり、「基点の周りを一周回ると、元の対象が変化する」という現象を記述する概念です。
本質
- 基点を固定し、空間内の経路を一周すると元の数学的対象(例えば関数の値や局所的解)が非自明な変換を受けること。
- 群論的に表現されることが多く、「モノドロミー群」と呼ばれる群によって、その変化の仕方が記述されます。
わかりやすいイメージ
「ひも付きの物体を中心の棒に巻き付けて一周させると、元の状態からねじれたりずれたりする現象」に似ています。
数学的には、例えば複素平面で解析関数を一周させるときに現れる多価性が、モノドロミーとして表現されます。
③ 両者の関係性
直接的には異なる概念ですが、実はモノドロミーは 「関手を用いて記述できることが多い」 という点で関係しています。
- 例えば、「基本群(fundamental group)」という群から「対象の自己同型(Automorphism)のなす群」への群準同型としてモノドロミーを表現することがあります。
- このとき、モノドロミーは「基本群から自己同型群へ写す関手(より正確には群の表現としての関手)」として解釈できます。
Functor(関手) | Monodromy(モノドロミー) | |
---|---|---|
扱う領域 | 圏論的な一般概念 | 幾何学や解析学の具体的現象 |
本質的意味 | 構造を保ったカテゴリー間の変換 | 空間内で一周すると起こる自己同型的変換 |
数学的構造 | 圏論的(対象と射) | 群論的(モノドロミー群による変換) |
両者の関係 | 一般的な枠組み | 特定の具体的状況で関手を通じて記述され得る |
FunctorとMonodromyの違い
- Monodromyは、しばしば特定のFunctorsによって定式化される
- Functorという一般概念が、Monodromyという具体現象を捉える枠組みとして現れることが多い
という形で関連しています。
「モノドロミーは関手という一般的な道具を用いて記述可能であり、関手の一種の応用例」と理解すると正確です。