Hamiltonian Monodromy
**Hamiltonian Monodromy(ハミルトニアン・モノドロミー)**とは、完全可積分なハミルトン力学系において現れる、アクション-アングル座標のトポロジカルな“ねじれ”構造のことです。
✅ 簡潔な定義
Hamiltonian Monodromy とは、完全可積分系において、
**アクション-アングル変数がグローバルに定義できない原因となるトポロジカル障害(twisting)**であり、
特異点(focus-focus singularity)のまわりを一周したときにアクション変数が変換される現象。
🧠 背景:完全可積分系とアクション-アングル変数
完全可積分系とは:
- 自由度 nn のハミルトン系で、相互にポアソン可換な nn 個の保存量 F1,…,Fnを持つもの
- フェーズ空間は 2n2n 次元、保存量のレベル面はトーラス(Tn)になる
アクション-アングル変数((I,θ)):
- トーラス上での自然な座標系
- Ii:アクション変数(定数)
- θi:アングル変数(時間で線形に変化)
通常、これらは局所的に定義できるが、グローバルにはうまく貼り合わさらないことがある
🔁 Hamiltonian Monodromyとは何が起こるか?
- 特異点(特に focus-focus singularity)の周囲でアクション-アングル座標を「解析接続」する
- 一周して戻ってくると、アクション変数が線形変換されている
- トーラス構造に「ねじれ」がある → トポロジカルな障害
- この変換を記述するのが モノドロミー行列
📐 数式的な構造(定義)
- モーメントマップ: F=(F1,…,Fn):M2n→Rn
- 正則値の空間 B⊂Rn において、各 b∈Bに対して F−1(b)≃Tn
- このトーラス束のモノドロミー: π1(Breg,b0)→GL(n,Z) が非自明なとき、その系は モノドロミーを持つ
🎯 代表的な例
1. Champagne bottle (Champignon) 系
- ポテンシャルが底で非退化な最小値を持つ
- S1対称性がある → 簡単な focus-focus 特異点を含む
- モノドロミーは \[(1101)\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\]
2. Quantum Monodromy
- 量子可積分系でも、スペクトル構造が「らせん状」にずれて見える
- 古典系のモノドロミーが、量子エネルギーレベルの配置に現れる
🌀 幾何的なイメージ
- 「一見トーラスに見えるけど、実はぐるっと一周するとねじれている」
- → トーラス束が「非自明なホロノミー(monodromy)」を持っている
✅ まとめ
要素 | 内容 |
---|---|
系 | 完全可積分なハミルトン力学系 |
現象 | 特異点の周囲でアクション変数が変換される |
原因 | トポロジカル特異点(focus-focus など) |
数学的対象 | トーラス束のホロノミー:π1(B)→GL(n,Z) |
意味 | グローバルにアクション-アングル変数が定義できないトポロジー的障害 |