トポロジカルな幾何学構造の基本式

空間が持つ“変形に不変な性質”を数式で表現する枠組みです。
これは通常のリーマン幾何のように「距離」や「角度」ではなく、位相的な構造(ねじれ、穴、接続など)に注目します。
トポロジー(Topology)とは、伝統的な幾何学分野であるユークリッド幾何学やリーマン幾何学のような「距離」「角度」「計量」といった厳密な条件を捨て、もっと柔軟で本質的な構造に注目した幾何学的枠組みです。
■ Topology(位相幾何)とは?
「連続性」と「つながり方」だけを扱う、最も抽象的かつ本質的な幾何学のモデルです。
■ 比較表:幾何構造の抽象化の流れ
幾何の種類 | 構造 | 扱う情報 | 柔軟さ |
---|---|---|---|
ユークリッド幾何 | 点、直線、角度、距離 | 長さ・角度 | 固い(厳密) |
リーマン幾何 | 微分可能な多様体+計量 gμν | 曲率、面積、最短経路 | 中程度(局所的にはユークリッド) |
ラグランジアン幾何 | 時空+運動系+作用関数 | 力学・変分原理・エネルギー | 動的だがまだ微分構造に依存 |
トポロジー | 開集合系(開集合族) | 連結性、穴の数、連続性 | 最も柔軟・抽象 |
■ トポロジーの視点:何を「同じ」と見るか?
トポロジーでは、
- 曲げてもOK
- 伸ばしてもOK
- ちぎったり貼り合わせたりはNG
というルールで“形の本質”を分類します。
たとえば:
- 球と立方体は同じトポロジー(穴がない)
- ドーナツとマグカップも同じ(1つ穴がある)
これは距離や角度を気にせず、連結性・穴の数・滑らかさなどに注目しているためです。
■ なぜ物理で重要になったのか?
量子ホール効果やトポロジカル絶縁体などの発見によって:
- 局所的な物理量(エネルギーやスピン)では説明できない現象が、
- 空間のグローバルなトポロジー(チャーン数、ホモロジー)によって支配されている
ことが明らかになり、**「物理現象の背後にある幾何=トポロジー」**が中心になったからです。
■ まとめ
Topologyとは、「ユークリッド」や「リーマン」「ラグランジアン」的幾何の“より根源的な抽象化”であり、空間に課す条件を極限まで緩めた、構造としての“つながり”そのものを扱う幾何学模型です。
■ トポロジカル幾何学の基本的な式・概念
1. ベリー位相(Berry phase)
量子状態がパラメータ空間を一周するときに得る幾何学的位相:
\[\gamma = \oint_C \mathbf{A(k)} \cdot d\mathbf{k}\]- γ \gammaγ:ベリー位相(幾何的位相)
- \[{A(k)} = -i \langle u_n(\mathbf{k}) | \nabla_{\mathbf{k}} | u_n(\mathbf{k}) \]
- ベリー接続
2. ベリー曲率(Berry curvature)
接続の“曲がり具合”を測る量:
\[\Omega(\mathbf{k}) = \nabla_{\mathbf{k}} \times \mathbf{A(k)}\]3. チャーン数(Chern number)
トポロジカル位相数の代表例。ベリー曲率を2次元ブリルアンゾーン(BZ)上で積分:
\[C = \frac{1}{2\pi} \int_{\text{BZ}} \Omega(\mathbf{k})\, d^2k\]- C∈Z:整数のトポロジカル不変量
- 量子ホール効果やChern絶縁体で観測される
4. Z2トポロジカル不変量
時間反転対称系でのトポロジカル分類に使われる:
\[(-1)^\nu = \prod_{i=1}^{4} \delta_i, \quad \delta_i = \prod_{n=1}^{N_{\text{occ}}} \xi_{2n}(\Gamma_i)(Γi)\]- ξ2n(Γi):パリティ固有値(TRIM点での)
- ν=1 ならトポロジカル絶縁体
5. ガウス・ボンネの定理(位相と曲率の接続)
幾何とトポロジーの古典的橋渡し:
\[\chi = \frac{1}{2\pi} \int_M K\, dA\]- χ \chi:オイラー数(トポロジカル不変量)
- K:ガウス曲率
- M:2次元多様体
6. ファイバー束・チャーン類の一般形
抽象的なトポロジカル構造の核:
\[c_1 = \frac{i}{2\pi} \text{Tr}(F) \quad\text{(第一チャーン類)}\]- F:ベリー接続の曲率(ファイバー束の曲率)
- チャーン類は多様体上の位相的分類子になる
■ 概念まとめ
概念 | 数式 | 意味 |
---|---|---|
ベリー位相 | \[\gamma = \oint A(k) \cdot dk\] | 幾何学的位相の蓄積 |
ベリー曲率 | \[\Omega(k) = \nabla_k \times A(k)\] | 接続の曲率 |
チャーン数 | \[C = \frac{1}{2\pi} \int \Omega(k) d^2k\] | 空間の“ねじれ数” |
Z2不変量 | \[(-1)^\nu = \prod \delta_i\] | 時間反転対称系の分類 |
オイラー数 | \[\chi = \frac{1}{2\pi} \int K dA\] | 曲率と位相の対応 |
■ 英語での表現
日本語表現 | 英語 | 意味 |
---|---|---|
位相 | Topology | 空間や構造の不変な性質(穴の数など) |
位相的構造 | Topological structure | 対象の変形に不変な構造(ファイバー束など) |
位相的相転移 | Topological phase transition | 位相的量(例:チャーン数)が変わる物理的遷移 |
位相対称性の破れ | Breaking of topological symmetry(稀) | 特定の位相的対称性(例:束構造)が変化する |