フェルマーの最終定理 | Fermat’s Last Theorem

フェルマーの出生地
フランス南部のボーモン=ド=ロマーニュ(Beaumont-de-Lomagne)。
フェルマーの最終定理を発表した街
フェルマー自身は、この定理を正式に発表しませんでしたが、彼がその定理を書き残したのは、フランス南部のトゥールーズ(Toulouse)とされています。彼はトゥールーズで法務官として勤務していました。
アンドリュー・ワイルズの出生地
イギリスのケンブリッジ(Cambridge)。
ワイルズが証明を発表した街
1993年6月、イギリスのケンブリッジ(Cambridge)で開催された数学会議において、フェルマーの最終定理の証明を初めて発表しました。その後、証明の不備を修正した最終版は1994年にアメリカ・ニュージャージー州のプリンストン(Princeton)で完成しています。
フェルマーの最終定理の証明
フェルマーの最終定理(Fermat’s Last Theorem)は、次のシンプルな式から始まります。
\[x^n + y^n = z^n\]ここで、x,y,z は自然数、n は3以上の自然数です。フェルマーの主張は、この条件を満たす整数の組 (x,y,z)(x,y,z) は存在しない、というものでした。以下では、この定理を証明したアンドリュー・ワイルズ(Andrew Wiles)の証明アイデアを、式の変形を用いて簡略化して解説します。
Step 1: 仮に反例があると仮定
フェルマーの最終定理が正しくないと仮定すると、次のような自然数の組 (a,b,c)が存在することになります。
\[a^n + b^n = c^n \quad (n \geq 3)\]Step 2: この仮定から楕円曲線を作る
ワイルズは、このような整数解が存在すれば、ある特定の「楕円曲線」が作れることに注目しました。その楕円曲線とは次のような形で表現されます。
\[y^2 = x(x – a^n)(x + b^n)\]この曲線は整数解の存在を仮定して作られたため、特別な性質を持ちます。
Step 3: 谷山–志村予想(モジュラー性定理)の利用
谷山–志村予想(現在はモジュラー性定理と呼ばれる)によると、「すべての楕円曲線はモジュラー形式と対応している」とされています。これを簡単に書くと、
楕円曲線↔モジュラー形式
という対応関係が成り立つことを示します。具体的には、楕円曲線の「数論的な性質」(整数解の数や分布)と、モジュラー形式という複素解析の分野で研究される「解析的な性質」(特殊な周期的性質を持つ関数)の間に深い関係性があるということです。
式で表現すると、
\[L(E, s) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{a_n}{n^s}\]というL関数(楕円曲線のL関数)を定義します。ここで、an は楕円曲線 E の性質を反映した特定の整数(フーリエ係数)であり、s は複素数変数です。このL関数が、モジュラー形式のL関数と一致することが谷山–志村予想の本質的な主張となります。
具体的には、次のような等式が満たされます。
L(E, s) = L(f, s)
ここで はモジュラー形式を表します。この対応が存在すれば、楕円曲線は解析的に扱うことが可能になります。
Step 4: モジュラー形式との矛盾の導出
しかし、上記の式で定義された楕円曲線を詳細に分析すると、この楕円曲線がモジュラー形式に対応しないことが明らかになります。つまり、この楕円曲線は「存在できない」ことになります。
式で書くと、
\[y^2 = x(x – a^n)(x + b^n) \]がモジュラー形式を持たない
Step 5: 矛盾から定理の証明へ
よって、元々の仮定である「an+bn=cn を満たす整数が存在する」という前提が誤りだったことになります。つまり、
\[a^n + b^n = c^n \quad (n \geq 3)\]を満たす整数解は存在しません。これがフェルマーの最終定理の証明の流れです。
まとめ
ワイルズはフェルマーの最終定理を、「整数解の存在」→「楕円曲線の存在」→「モジュラー形式との対応」という数学的な枠組みで捉え、最終的に矛盾を示すことで、360年以上解かれなかった歴史的難問を証明したのです。
この証明によって、整数論や幾何学、解析学などの数学分野が融合し、新たな数学の世界が開かれるきっかけとなりました。
楕円曲線とモジュラー形式の対応関係を示す代表的な例として、よく知られるのが「導手11の楕円曲線とモジュラー形式の対応」です。以下、具体的な式で説明します。
【楕円曲線 ↔︎ モジュラー形式の例】
楕円曲線の例(導手11の楕円曲線):
次のような方程式で与えられる楕円曲線を考えます。
\[y^2 + y = x^3 – x^2 – 10x – 20\]この曲線は、「導手11の楕円曲線」として知られています。
対応するモジュラー形式:
一方、この楕円曲線に対応するモジュラー形式(ウェイト2、導手11)は次のようなq展開(フーリエ展開)で表されます。
\[f(q) = q \prod_{n=1}^{\infty}(1 – q^n)^2(1 – q^{11n})^2\]これはさらに明示的に展開すると、
\[f(q) = q – 2q^2 – q^3 + 2q^4 + q^5 + 2q^6 – 2q^7 – 2q^9 – 2q^{10} + q^{11} + 4q^{12} + \cdots\]のような形で表示されます。
L関数による対応の明確化:
この楕円曲線とモジュラー形式は、それぞれのL関数が一致することを通じて対応付けられます。
- 楕円曲線のL関数(数論的情報を集約したもの)
- モジュラー形式のL関数(フーリエ係数を用いて作られる解析的情報)
これらが全く同じ関数として一致します。式で表すと、 L(E,s)=L(f,s)
です。ここでの一致は、整数解や有理点の性質が、モジュラー形式の解析的な性質と完全に一致していることを示しています。
歴史的な意義:
この対応例(導手11の楕円曲線)は、数学者Goro Shimura(志村五郎)とYutaka Taniyama(谷山豊)による「谷山–志村予想」の重要な具体例であり、この予想が証明されるきっかけとなった中心的な事例です。特に、Kenneth Ribet(ケン・リベット)が1986年にこの例を利用して「谷山–志村予想が成立すればフェルマーの最終定理も証明される」ということを示し、これがAndrew Wilesが証明を目指す直接の動機となりました。