素粒子のヘリシティ(Helicity)

1. ヘリシティ(Helicity)の定義
(1) ヘリシティとは?
ヘリシティ(Helicity)とは、粒子のスピンの向きと運動方向の関係を表す量 です。

(2) ヘリシティの種類
- 右巻き(Right-handed, h=+1):
- スピンの向きが運動方向と同じ(並行)。
- 左巻き(Left-handed, h=−1):
- スピンの向きが運動方向と逆(反平行)。
💡 例:
- 右手の親指を粒子の進行方向に向けたとき、指の巻き方向がスピンの向きと一致する場合 → 右巻き
- 親指の向きとスピンの巻き方向が逆の場合 → 左巻き
(3) ヘリシティと質量の関係
- 質量がゼロ(光子、グルーオン、標準模型のニュートリノなど)
- 光速で移動するため、どんな観測者から見てもヘリシティは変わらない(不変)。
- 例:光子はヘリシティ ±1を持つが、静止系を取れないのでヘリシティは固定される。
- 質量がある(クォーク、電子、陽子など)
- 移動速度が光速より遅いため、観測者の速度によってヘリシティは変化し得る。
- 速度を超えるようなフレーム(ローレンツ変換)にすると、ヘリシティが逆転する可能性がある。
2. ヘリシティがハドロンやバリオンにどう関与するか
(1) 強い相互作用(QCD)はヘリシティに依存するか?
- 強い相互作用(QCD)そのものは、ヘリシティに依存しない。
- クォークはカラーチャージ(色荷)を持ち、グルーオンを交換しながら束縛されるため、右巻き・左巻きの両方がハドロン化に寄与する。
💡 結論:
✅ ハドロン化(クォークがハドロンになる過程)は、ヘリシティの影響を受けない。
✅ 右巻き・左巻きのクォークの両方がハドロンやバリオンの構成要素になれる。
(2) 弱い相互作用(Wボソン)はヘリシティに依存するか?
- 弱い相互作用(Wボソンとの相互作用)は、左巻き粒子しか関与しない。
- 例えば、β崩壊(d→u+e−+νˉe)では、左巻きクォークのみが関与する。
- そのため、バリオンの変換過程においては、ヘリシティが重要になる。
💡 結論:
✅ バリオンそのものの形成にはヘリシティは関係ないが、バリオンの変換(崩壊や生成)には影響を与える。
✅ 例えば、β崩壊では左巻き成分のみが関与 するため、バリオンの内部状態に影響を与える。
(3) ヘリシティとバリオンのスピン構造
バリオンは3つのクォークからできており、スピン構造を考える必要がある。
- 陽子(p=uud)や中性子(n=udd)のような通常のバリオン(スピン1/2) では、3つのクォークのスピン状態が組み合わさり、ヘリシティ成分の混合が起こる。
- Δバリオン(Δ+ など、スピン3/2の状態)では、3つのクォークのスピンが揃った状態になる。
💡 結論:
✅ バリオンは3つのクォークのスピンが組み合わさって形成されるため、個々のクォークのヘリシティだけで決まるわけではない。
✅ ただし、バリオン内部のスピン配置(例えばΔバリオンのような高スピン状態)は、ヘリシティの影響を受ける。
3. まとめ
項目 | ヘリシティの影響 | 理由 |
---|---|---|
強い相互作用(ハドロン化) | ❌ 影響なし | QCDはスピン方向に依存しない |
バリオン形成(バリオン化) | ❌ 影響なし | 右巻き・左巻きクォークの両方がバリオンに寄与可能 |
弱い相互作用(Wボソンとの相互作用) | ✅ 影響あり | Wボソンは左巻きクォークのみと相互作用する |
バリオン崩壊や変換(β崩壊など) | ✅ 影響あり | 左巻きクォークしか関与できないため、バリオンの変換が制限される |
バリオンのスピン構造(スピン1/2 vs 3/2) | ✅ 影響あり | クォークのスピン配置によりバリオンのスピン状態が決まる |
4. 結論
- ヘリシティはハドロン化やバリオン形成には直接影響を与えない(強い相互作用はヘリシティに依存しない)。
- 弱い相互作用は左巻きクォークしか関与できないため、バリオンの変換(例えばβ崩壊)には影響する。
- バリオン内部のスピン構造は、クォークのヘリシティ配置に影響を受けるが、形成自体には制限がない。