スタートアップ成功の定理とMutual Zero-Knowledge Proof (ZKP) フレームワークの活用

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スタートアップ成功の定理とMutual Zero-Knowledge Proof (ZKP) フレームワークの活用

1.スタートアップ成功の定理

注意事項
本記事は未来における技術革新の可能性を検討、技術のフレームワークを経営に応用することについて思索している文章であり、2025年現在における確立した技術について記載している専門的な記事ではありません。

TANAAKKの運営するHITSERIES CAPITALではスタートアップに関する真理を以下のように定義している。

「成功する能力(プロダクト)を持つスタートアップ(Prover)が実際に未来において成功するかどうかは、多くの人にとって一見分かりにくい。しかし、目利き能力を持っているバイヤー(Verifier)にとっては成功する要素を持つことが明らかであると容易に検証する事ができる。Accredited verifierはProverから証明問題に関する一切の情報開示を得ることなく、成功するための要素である真実を持っていることを確証することができる(Zero Knowledge Proof)。」

1-1. ZKPの基本とMutual ZKPの概念

ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof, ZKP)は、証明者(Prover)が、検証者(Verifier)に対して「ある命題が真である」ことを、「それが真である」理由やその他の余分な情報を全く明かさずに証明できる暗号学的技術である。ZKPは、3つの特性を持つ。

  1. 完備性(Completeness):
    • 証明者が正しく証明できるならば、検証者はその証明を受け入れる。
  2. 健全性(Soundness):
    • 証明者が虚偽の主張をしている場合、検証者はそれを見破ることができる。
  3. ゼロ知識性(Zero-Knowledge):
    • 検証者は「命題が真である」と納得するが、証明の具体的な方法や詳細情報を知ることはできない。

通常のZKPでは、片方向的な証明が行われる。ある数学者の学生(prover)が新たな公理を発見した時、その公理が真実であれば、公理の証明方法を全く明かさずに、教授(verifier)に対してその公理が真であることを説得することが可能である。

通常、Zero Knowledge Proof Techniqueでは、Verifyプロトコルを持っており、例えばfour colour theorem/tricolour diagramという手法を用いれば、1回の試行で99.999%の信頼、2回の試行で99.99999999%、3回の試行で99.9999999999999%の信頼が得られる。つまり、現実的には2回のインタラクションでProverが真である理論を持っていることがVerifierにより十分信用度が高いとしてチェックされる。

2. スタートアッププロダクトにZKPの概念を応用する

これはプロダクトのプロトタイプをリリースしたばかりのスタートアップ(Prover)が、ユーザー(アーリーアダプター)、大企業、ベンチャーキャピタルといった、Verifierを説得する構造によく似ている。Verifierはスタートアップが証明しようとしている公理が正しいかどうかに関するエビデンスを得ることはできないが、数回の会話の結果、プロダクトの利用、購入、出資を決めなくてはならない。

2-1. ZKPがあれば2回の会話で成約する

通常、ZKPでは、2回のインタラクションでProver(スタートアップや新規プロダクトを開発する企業)が「このプロダクトは未知の問題を解決する真理を有する(NP-complete)」と証明し、Verifier(大企業バイヤーやベンチャーキャピタル)がその証明を確認する という構造を持つ。その際にVerifierが有効な検証能力を持っている場合は、全く知識を増やすことなく、検証を完了することが可能であることがポイントだ。(したがって、真に成功するベンチャー投資にはデューデリジェンスは不要であり、儀式としてDDを実施しているに過ぎない。)

2-2.ZKPの理想と、現実世界におけるZKPの実用の相違点

通常ZKPではVerifierの能力を問題にすることはない。Verifierは、真実であるものを必ず見破る力があるという前提である。しかし、実世界においては、Verifier側が「その証明を適切に検証できる能力(真理)を持っているか?」もまた、証明されるべき問題である。例えば、クレジットカード業界ではTrusted Third Party(信頼できる第三者)として、VISA、MASTER、AMEXといった決済ネットワークが存在し、買い手(カード利用者)の信用情報をIssuer(発行銀行)が保証する仕組みとなっている。店舗は、クレジットカードを持った利用者が本人であるか?または支払い能力があるかどうか?についてリスクを取る必要がない。このような第三者認証(verifierとしてのtrusted third party)が普及している業界では検証業務はアウトソースできるが、スタートアップのようなイマージングマーケットでは、信頼できる第三者機関にVerifierの検証能力の保証をアウトソースすることができない。このため、Verifierの評価能力を確認するための代替手段が必要となる。すなわち、Mutual ZKP(相互ゼロ知識証明) の枠組みが必要になる。

Mutual ZKP では、

  • Proverは「このプロダクトが真である」ことを証明し、
  • Verifierは「このプロダクトを正しく評価できる真の能力を持っている」ことを証明する。

この相互認証が成立しなければ、ProverがNP完全な問題を提示していてもVerifierに評価能力がないと解に辿り着く事ができない。 相互認証を成立させておかないと、相互に膨大なリソースを投じた上で結果的に失敗するリスクがある。

2-3. プロダクトにおけるP問題とNP Complete問題

ここでNP completeの概念にふれる。nondeterministic polynomial-time complete problemとは、真実であることが明らかであり、解があることの検証は容易であるが、それがまだ未証明であり、証明するために膨大な計算の試行回数が必要となる種類の問題のことである。相対的な概念はP (Polynomial Time problem)であり、手続的な処理をすれば回答が出る類の問題である。例えば、普通自動車を1台製造するという問題は、手続的な処理で解が完成する。

スタートアップが新規プロダクトをリリースする場合、そのプロダクトが市場に受け入れられるかどうかは、一種のNP完全な問題に類似している。なぜなら、

  • 正しい解(市場で成功する能力のあるプロダクト)がもし存在すれば、評価能力を持ったVerifierにとって評価するのは容易である。
  • ただし、解が正しいということを証明するのは計算量的に困難であり、大量の試行錯誤が必要。

2-4.スタートアップはNP completeを扱う必要がある。

スタートアップのプロダクトはP(easy to find, easy to prove)ではなく、NP complete(easy to find, difficult to prove, unfound yet)でなくてはならない。すでに解が正しいことを証明されているようなプロダクト(NP-easy, easy to find, difficult to prove, already found)はマーケットで流通している。未知の問題を解き、解が正しく、その証明に時間がかかるというのが条件である。未知の問題であるが、世間に盲点があり、証明に時間がかからない問題というのは理論的にはあり得るが、現実的にはないと考えて良い。(そうであれば各社ともに膨大な研究開発費を支払っている理由がなくなる)したがって、「成功する能力(プロダクト)を持つスタートアップ(Prover)が実際に未来において成功するかどうかは、多くの人にとって一見分かりにくい。しかし、目利き能力を持っているバイヤー(Verifier)にとっては成功する要素を持つことが明らかであると容易に検証する事ができる。Accredited verifierはProverから証明問題に関する一切の情報開示を得ることなく、成功するための要素である真実を持っていることを確証することができる(Zero Knowledge Proof)。」という冒頭の主張を導き出すことができる。

3. 現実世界ではVerifierが検証能力を持っていることの証明が必要

「真のプロダクトを持っている」 という事実だけでなく、それが真であることを評価する能力を持ったVerifierが存在することも重要になる。 Verifierが適切な評価能力を持たない場合、市場にとって最適なプロダクトが存在していたとしても、適切な評価が行われず、普及が阻害される。 これが、NP完全問題がNP-hard but unsatisfiableになり得る構図 である。

3-1. Verifierが能力を持っていない場合のリスク

もしVerifier(大企業バイヤーやVC)が正しく評価する能力を持っていない場合、以下のような状況が発生する。

  • 「NP-hard but unsatisfiable」(NP困難だが充足不能)
    • スタートアップは最小エネルギーな真のプロダクトを提供している可能性があるが、Verifierに検証能力がないため、真であることがチェックされない。(Verifierに検証能力がある場合、2回のインタラクションで簡単に証明できる。)
    • NP completeではあっても、制限期間内でVerifierを見つけられないと、市場導入が進まない。
    • 適切なVerifierを複数発見しておかないと、NP-hardであって、missclassifiedであった可能性を潰すことができない。(真でない事が証明される可能性を消すことができない)
  • 「PSPACE-hard but unsatisfiable」(PSPACE困難だが充足不能)
    • NP-hardよりも困難で、膨大な計算能力が必要である。また、膨大な試行回数も必要である可能性もある。→PSPACE-hardであるが、NP-completeであったという証明をする必要があり、さらにその証明をverifyしてもらう必要がある。
    • PSPACE (Polynomial SPACE) とは計算複雑性理論において、多項式量の空間を使用してチューリング マシンで解決できるすべての決定問題の集合のこと。PSPACE困難ということは、膨大な空間を利用したとしても解答を出すことができない問題のこと。
    • 計算機科学では問題を解くのにかかるステップ数を時間(Time)と定義し(計算ステップの回数)、計算に必要なメモリの量(使用する記憶領域)を空間(Space)と定義する。計算量の理論では、「計算能力」を表す言葉として 「時間計算量(Time Complexity)」「空間計算量(Space Complexity)」 があり、これらを使って問題の難易度を分類する。

3-2.Verifierの能力を確認するためのプロトコル

VerifierがProverの持つNP完全なProofの真実性を検証する能力を持っているかを確認する方法として、以下の2つが考えられる。

  1. Trusted Third Party(信頼できる第三者)による検証能力の保証
    • クレジットカード業界におけるクレジットカードネットワーク(VISA, MASTER, AMEXなど)。ただし、ベンチャーキャピタルのようなイマージング市場では、この方法を取るのが難しい。
  2. 既知の問題やテストケースを提供し、それを正しく検証できるかを確認する方法
    • Verifierが過去に正しく検証したケース(事例)を基に、その能力を評価する。
    • 証明がより簡単な問題をVerifierに提示し、回答能力を評価する。
    • ただしいずれのケースも、未知の問題を解くことができるというチェックにはならない。

4. ZKPによるスタートアップ成功要因と失敗要因の分類

スタートアップの成功にはMutual ZKPが必要不可欠である。過去の大型スタートアップの失敗を振り返ると、多くの場合、スタートアップが市場に対して未知の問題に対する最適な解を提示していないにも関わらず、Verifierが偽の情報を真と思い込み、失敗した事例が見られる。

4.1. Mutual ZKPの充足によるスタートアップの成功

  • 成功例 未知の問題における真実を持ち、制限期間内に正しいVerifierを得ることができ、NP-complete→NP-easyとなった。(NP completeであり、期間内にVerifyされ、Proveされ、NP-easyとなる。)

4.2.Mutual ZKPの不足によるスタートアップの失敗

  • 失敗例①未知の問題における真実を持つが、制限期間内に正しいVerifierを得ることができなかった。想像以上の計算能力が必要であり、与えられた資本と期間内で解が出なかった場合(NP completeであったが、期間内にVerifyされなかった。フェルマーの最終定理など。NP hard, PSPACE hard。)
  • 失敗例②:既知の問題を未知の問題と誤認した場合(PをNP completeだと勘違いした)
  • 失敗例③:未知の問題に対して解を持っていないが、持っていると誤認した場合(NP hardであり、のちにMissclassifiedと明らかになる場合)

4.3.必ずしも失敗と言えないケース

ただし、失敗例①のケースでは、NP-completeが真であれば公理は合っているため、時の経過で真であったことが証明されるため、必ずしも失敗とは言えない。一方この分類でわかることとして、スタートアップのプロダクトハイパーグロースの鍵は、決められた期間(例:10年間)内に、未知の問題であって解が正しいことを証明することにある。

5. Mutual ZKPが充足され成功した後に、条件変更で失敗するケース

実ビジネスの世界ではMutual ZKPが成立した後でも失敗するケースがある。それは以下のケースである。

5.1.Proverが真実を見失い、Mutual ZKPが失われる

Proverが真であり、VerifierもいてMutual ZKPが成立していたが、企業規模の増大ののちにProverが真実を見失うケース→プロダクトリリース当初はNP-complete問題の解を得ていたが、企業規模が膨らむにつれ、真実を見失うケース。(例 2000年頃までは世界的な大手企業であったコダックが2012年に倒産)

5.2.ProverがNP-completeを証明(NP-easy)し、新たなNP-completeが提示できない

Proveが提示していたNP-completeがのちにNP-easyであることが判明し、新たなNP-completeを提示できないまま、新たにNP-completeを提示した他社に負け、競争力を失っていくケース。(例 Sonyがウォークマンで全世界を席巻したが、その後iphoneに取って代わられる)

5.3. Verifierが偽になるケースはあるか?なさそうである

Proverが真であるがVerifierが偽になるケースはさほど問題とはならない。(真であって、初期のverifierを得た上で、真なる問題を解き続けているのにverifierがいなくなるケースはない)

6.まとめ:Mutual ZKPによるプロダクトハイパーグロース戦略

スタートアップがプロダクトをハイパーグロースさせ、Hypeを超えて生き残りつつまた新たな成功を再生産させるために必要なMutual ZKPプロトコルは以下と定義される。

6.1.Mutual ZKPフレームワークによるスタートアップ成功の定理

  1. Prover(スタートアップ)が「このプロダクトは真実である」ことをZKPで証明する。
  2. Verifier(大企業やVC)が「このプロダクトを正しく評価する能力がある(Accredited)こと」をZKPで証明する。
  3. 決められた期間(例:10年間)内に、未知の問題であって解が正しいと証明する必要がある。(NP-complete→NP-easy)
  4. 企業規模が増大したとしてもProverが真実を見失わないこと。
  5. ProverがNP-complete問題を解決し、NP-easyになった後、また新たなNP-completeを提示すること。

6.2.真実を持つもの同士は相互信用を構築する際に、互いが真であることのエビデンス提出を省略することができる(Product-led organic growth)

ここまでみてきた上で補足すると、現代21世紀で行われているほとんどの政策、ビジネス、サイエンスの意思決定はエビデンスベースに重きがおかれているが、「真実をもつ者同士は互いが真であることを検証する際に、真であることのエビデンス提出を省略することができる」というのがMutual ZKPのイノベーションである。これはエビデンスがなくても良いと主張しているわけではないが、例えば真実をスタートアッププロダクトとして世に普及させる場合のステップを以下とするとMutual ZKPを用いれば④以降のプロセスに関するコストを大幅に下げることができる。つまりCAC(Customer acquisition cost)が下がり、ハイパーグロースを実現しやすくなる。Product-led organic growth (プロダクト主導のオーガニックグロース)とは、NPにZKPがあるということが証明された時代におけるVerifier獲得の最小エネルギー化に関する、新たなイノベーションである。

6.3.真実の普及までのステップ

①Proverとして真実っぽい仮説を立てる
②仮説が真実であると自分の中で証明する
③証明された真実が現実の影響力を持つことを小さなコミュニティで確認する
④verifierに主張が真であるということの説得をする
⑤verifierから主張が真であるという認証を得る
⑥真実を普及する
⑦真実が世にも明らかになり、当たり前の現実となる
⑧仮説(Theory)は公理(Axiom)から導き出された定理(Theorem)であったことが証明される

「Mutual ZKPの視点は、マーケットベンチマークを超える資本収益率と、Earnings growth, Operating leverageを狙いとしたプロダクトハイパーグロースのテンプレートである。」とTANAAKKは主張している。TANAAKKでは2006年から2021年までは①から③に取り組んでいた。2021年からはこれをMutual ZKPによりverifyしているので、④以降の真実の普及に関するコストは低く、スピードが早い。証拠として、2021年の3年間で年商を50倍にまで増やしている。業績を社員の優秀さや、マクロマーケット環境の良さ(悪さ)に帰着させてはならない。スタートアップは自然を扱い、自然現象や自然物、または自然が乗っかっている時空を記憶領域や計算資源として活用している以上、人間の力でハイパーグロースは実現不可能であることが言えるだろう。人間の力のコアはAttentionを生み出す能力、言語とメタセマンティクスを操る能力であり、計算資源や計算能力は有していない。計算は天体、土地、建物、プロダクトなどの物質が担っている。

Mutual ZKPの威力が続くかどうかは今後、TANAAKKが真実を見誤らず、さらなるNP-complete問題を地球上に提示できるかどうかにかかっているが、条件が明確である以上、大局的な方向性を誤ることはないのではないかと考えている。