スタートアップの問いの純粋性とノイズの排除について
田中翔一朗
スタートアップは時間と空間の性質に関する実験室
貨幣経済においてリソースを世界中から集めるための最上位の原理は投資規模、投資収益率、フリーキャッシュフローの計画的増加である。貨幣経済は予測可能性、確率の収束性といった、産業の上位概念を扱うものであり、物理学で言えば最も弱く普遍的な力である重力や、時間空間に関する実験室のようなものである。
実験は適切な範囲を設定し、特定の環境における物質の振る舞いを対照実験で比較する必要がある。実験設計上の研究バイアスや、結果の解釈に関してファクトの取り扱いミスが出やすいため、仮説が正しく、手法も正しい場合であっても純粋な結論(真または偽)を出すことは想像以上に難しい。
特にスタートアップにおいては、既存産業を上回る投資収益率、営業キャッシュフローを証明し、それが小さい資本でも、資本を増やして大きく拡大しても規模の経済が働いていくことを示す必要がある。スタートアップの問いの設定についてTANAAKKの方針を書いていく。
投資収益率とスケーラビリティに関するInflow>Outflow実験環境
投資収益率とスケーラビリティに関する証明問題の仮説検定の環境づくりは難しい。スコープが広いとノイズも多いため、狭いスコープから実験を進める必要がある。例えば、売上や融資によるキャッシュインフローと原価や投資によるキャッシュアウトフローのみを観察する。ビジネスモデルとか細かいところをスコープにいれるとノイズになるのでカネの出入りだけを観察する。(これは会社員でも経営者でも同様に使える手法。)
体を分ける
キャッシュの出入りを観察する場合に重要な前提条件は、箱を分けることである。相互にコンポーネントの関係性のある事業は同じ会社で進めて良いが、どう考えてもモジュールが違う場合、例えば顧客、販売網、社員、サプライチェーンが交わらない場合(例えば建設と自動車)は別の会社で会計を分けた方が良い。まずは適切な箱を設置するのがスタートである。すなわち、大企業内の新規事業であっても、売上が出る前から子会社化してしまった方が業績に関する原因と結果を判断するためのスコープが狭くなるので、原因と結果の因果関係が明確なことで、事業の真偽が早く見つかるケースが多いと感じる。企業が生き物だとすると、閉じた系単位で体を分離した方が良いということだ。
フリーキャッシュフローを作るためにはまず支出先行
スタートアップの最終目的はフリーキャッシュフローを成長させることであるが、キャッシュインフロー>キャッシュアウトフローが最初から達成できていることはないので、まずは支出を先行し、収支バランス黒字のホメオスタシスを崩す必要がある。
支出先行によりフリーキャッシュフローのマイナス(キャッシュインフロー<キャッシュアウトフロー)が始まるのだが、収支黒字の均衡が崩れていることにより、予想外のエネルギーの入り(臨時収入や人との出会い)がある。毎月観察していると支出を増やしたことにより、より大きな収入の波が遅れてやってくることがわかってくる。
フリーキャッシュフロープラスへの移行に必要な富の識別力
ここから理想であるフリーキャッシュフローのプラス→さらに営業キャッシュフローのプラスに移行していくために、デマンドシグナルや原価構造をみていく必要がある。ここでは「富の識別力」が要求される。
富の識別力「有効需要」
たとえば製造業であれば製品は、エンドユーザーのニーズに訴求したプロダクトで潜在需要があり、尚且つ有効需要(カネを払う)があれば売れる。ニーズ(潜在需要)があっても有効需要がない場合は最もコストがかかる。無料の公園のようなもので、みんな公園は好きで利用したい(潜在需要あり)がカネを払って公園で休憩する人はいない(有効需要なし)。売上というトップラインを引き上げる場合にはまず支出先行だが、支出先行のプロセスの中で、潜在需要を見つけ、さらに潜在需要の中に、有効需要の波をとらえる必要がある。有効需要にフォーカスし、潜在需要を捨てることで、収入の波を一段階引き上げながら原価構造をダイナミックに変えていくことにより、支出先行で赤字基調だったアンバランスが、まるで体の傷が放っておいても自然と治るかのように赤字を解消して黒字になるのだ。ここまで半年ほどで実現できることが多い。気を付けるべきは半年以上の月次赤字だ。傷が深すぎて回復しない可能性があり重傷化しているので緊急手術が必要かもしれない。
「潜在需要あり∩(かつ)有効需要なし」≠「潜在需要あり∩有効需要あり」
ニーズ(潜在需要)があって、有効需要がない場合、つまり、利用はされるがカネを支払う人がいないプロダクトは要注意だ。資本に余裕がある人ほど「潜在需要あり∩(かつ)有効需要なし」の落とし穴にはまりやすい。スタートアップの営業キャッシュフローの観察実験において仮説検定の邪魔になるのが一見有利なように見える既存商流である。ほとんどの大企業内スタートアップは新製品を販売するにおいても、まずは既存の販売代理店や既存取引先などの販売ルートから商品を売り出すことを好むが、そうすると、エンドユーザーの有効需要なのか、販売代理店の有効需要なのかがわからなくなってしまうのだ。販売代理店の営業マンはルートセールスで顧客を回った時の新しい話のネタを求めている。話のネタとして抱き合わせ販売されてしまうと、その新製品にエンドユーザーの有効需要があるかどうかがわからない。卸業や下請のビジネスモデルでは最終消費者の有効需要に関する情報が遮断されてしまう。例えばブランド企業のTier1製造業者は自然とトヨタ、Apple、NVIDIAなどの大型購買者が求める部品を生産しようとしてしまうが、市場シェア首位の大企業のニーズと、エンドユーザーである消費者のニーズは一致することはない。スタートアップは大企業の論理に巻き込まれると失速する。スタートアップは常に最終消費者の需要と向き合うことのできる情報製造小売業を主体にすべきである。
見知らぬ人にモノを売る方が学習効果が高い
新商品は必ず、これまでにあったことのない人にお勧めすべきである。見知らぬ人に初見で新商品を買ってもらうのが最も難しい。自分たちと関係性の全くない人が一番厳しい意見を持っている。知人が正しい意見をくれることはない。既存取引先で、会ったことがある人に新しい製品をもっていくのには問題がある。新たな商品は新たな顧客のためにつくられるものであり既存顧客はアーリーアダプターになることは少ない。既存顧客は遅れて来るレイトマジョリティである。新商品は、99%が新しい取引先になるようなもので、テレアポや飛び込み営業で売りにいくくらいのほうが市場の厳しい意見を取り入れることができ、学習環境として適切である、結果としてハイパーグロースしやすい。
エコシステムにおけるインフロー>アウトフロー
営業キャッシュフローがマイナスであっても、毎月の顧客が増える、社員が増える、また、限界損失が縮小、社員一人当たりの営業損失が毎月縮小していくのであれば、時間の経過により黒字化する可能性がある。財務的なバランシングと同様にエコシステム内の人間の出入りがあるかどうかも重要なファクターとなる。
実験ノイズをなるべく省く
エコシステムにおいてInflow>Outflowであるかどうかを厳密に仮説検定するために邪魔になるものがある。例えば、広告費、販促費、採用費などを過度に投じてしまうと、本当にエンドユーザーの有効需要があるから限界利益率の向上とともにユーザーが増えるオーガニックグロースなのか、そうでないのかがわからなくなる。仮説検定による因果関係の見極めのノイズになってしまう。
スタートアップに広告費と採用費は不要
スタートアップに採用費と広告費は不要だと考えている。なぜなら、ノイズがあると実験の成果を検証することが難しくなるからだ。現金の出入りというのはとても純度の高い現象である。キャッシュインフロー>アウトフローを維持しながら現金の出入り規模を毎年増やしていくと言うことは、エネルギー効率を改善しながら扱うことのできるエネルギーの総量を増やしていくということだ。広告費を使ってしまうと、純粋なエンドユーザーの有効需要がわからなくなってしまうし、採用費を使ってしまうと、需要があるから人が必要という雇用の基本原理を歪め、需要がないところに人を置いてしまう危険性がある。需要はないが、転職エージェントにカネを払ったので、人が集まってしまった、そして仕事が足りていないので、短い期間で離職され、最後に儲かったのは人材紹介業者だけになってしまうという具合だ。
例えば、タナークでは一度も仲介報酬を支払ったことがない。エージェント経由での採用活動もしたことがなく、直採用だけで2021年から3年間、ゼロから年商10億円、社員数1名から100名まで到達した。この倍率でいけば3年後には年商1000億円になる勢いだ。販売活動もどんな大企業が相手であっても基本的にはテレアポからの直販である。大企業内部の社員は自社で誰が何の仕事をしているのか知らない。したがって、社員に対象者を紹介してもらうよりもテレアポで探す方が効率が良い。エネルギーの出入りを観察する目的であれば一見大変に見えるようなやり方の方が効率が良い。
人手不足は幻想、真の理由は人手余り
人手不足といっている企業のほぼ全て、労働力に対する仕事量が足りていない。国内産業のほとんどが減収している業界なのに、毎年人が減っていないのであればおかしい。人がいれば売上が増えるとつぶやく経営者の全てにいえることだが、そのような企業では待機時間などにより労働力が余っていて、売上に対して余分なコストが計上されており、マーケットに対してコストコンペティティブではない。労働力過剰な組織は新入社員からすると人がいすぎて仕事がないため、仕事量に対して人間の方が多い場合はテリトリー争いが起こり、経済的原理が働かないローカル社会的な合議で意思決定が進んでしまう。経済的な理由で意思決定されることが減ってくるため、人やカネが離れていくのだ。
需要に対して、供給量が足りない市場に、人材を供給する
経済学の基本であるが、需要があって、供給が足りない市場にのみ、新規参入の生産者は存在できる。供給過剰な産業では生産者は増加することができない。同様に社内で経済的に必要とされていなければ新たな入社希望者は根付かない。人手不足といっている会社や部門のほとんどは、現在の技術を駆使すれば不要である仕事をしている可能性が高く、売上に対して人員過剰なために薄利または赤字になってしまっているのだ。現代的経営において、人事とは最上位の概念ではなく、投資対象のマーケットで物理的に省エネルギーな情報処理体系と原価構造を持った組織がより長く生存し、拡大することができる。現代においては、情報構造が人事構造を凌駕し、人事は情報に従属している。誰かが入社することを決めるとき、そこに経済的な余白や相互の依存関係(経済的ニーズのマッチ)がなければならない。
スタートアップにとって過剰な資本はノイズとなる
採用費や広告費と同様に、過剰な資本というのもスタートアップのノイズになる。支出を大幅に先行させて、広告費や採用費を大量に投下したことによって獲得した売上は、必ず投資対効果(ROIC)が下がるものだ。カネを使ったことによる作られた、増益を伴わない売上なのか、それとも製品や販売方法が時代に即しているから実現できている増益を伴うオーガニックグロースなのかがわからなくなるのだ。資本調達は資本収益、限界利益率、成長率の法則が証明された後にすべきというのが私の意見であるが、スタートアップにおいて、増収増益が実現してから資本調達をしようという悠長な考えを持っていられるラッキーなマーケットはほんの一握りだ。
スタートアップはラッキーなマーケットを見つけ続けるゲーム
スタートアップでは、新たな有効需要に対して生産者がまだ整っていないラッキーなマーケットでやるべきだ。そのようなマーケットは社会が作り出すものなので、自分の力を超えた強い力で会社が動く。そしてそのようなラッキーマーケットもすぐに規模の限界が来て利益率が大幅に下がる。利益率が下がったのに気付かずに投資を継続しても、すぐには影響は出ないが、2年ほどたって修復不可能な赤字になったり、投資収益率や利益率が一向に改善しなくなる。ラッキーにあぐらをかいて、次の桁に進めなくなった上場企業の経営者(見た目は成功者)もたくさんいる。スタートアップは半年に一回投資対象を修正するくらいのダイナミックなコスト配分が求められるゲームだ。逆説的になるが、オーナーシップを希薄化させるほどのエクイティファイナンスをしないと成長させられないようなアンラッキーなマーケットではスタートアップはやらない方が良いのではないかという意見を持っている。日本国内で日本円の事業に限るが、資本収益、限界利益率、成長率の法則が証明されていれば、メガバンクや地方銀行との取引で十分資金が調達できるからだ。ラッキーなマーケットを見つけ続け、賞味期限が切れたら同業者に先んじて次のマーケットに移るという先見の明と柔軟性が重要だ。
資本調達と売上はどちらも同じ返済義務を負っている
また、資本調達、売上計上のどちらをとっても、根本的なエネルギー構造は、キャッシュフローの出入りである。融資を返済するのは当たり前と思うだろうが、売上であっても受け取った瞬間に返済義務がはじまる。市場はより良い製品を期待するので、借入した金額を返済するのと同じく、売上もより良い製品やサービスという形で消費者に還元していく必要があると言う意味では、すべての現金は売上、預金、借入、現金同等資産(土地、建物、機会、原材料、在庫)のいずれにかかわらず、社会からの借り物であると結論づけることができる。
仮説検定のノイズを排除する
例えば、大企業や営業会社でよく見るのは、営業部門が業績未達だと、上司が部下を怒る、そうすると現場が動き業績が少し改善してしまったとする。イヤイヤ人を動かしてしまうと事業構造の投資収益率がよかったからそうなったのか、労働量を増やしたからそうなったのかの区別がつかない。気合いや声出しは部活や学生の時は楽しいが、投資収益を生み出す一連の作業において気合いや根性は意味をなさない。アドレナリンを奮起させて労働量を増やすことによる業績改善には短期的なメリットはあるが、長期的なメリットが全くない。残業代を支払ば勤務時間は増やすことができるが、労働力は疲弊していき、製品の有効需要に関する情報は遮断され、競争力が落ちマージンは下がっていく。つまり、時代に合った適切な情報処理構造や原価構造を持たない経営者は、売上を「返済」することができず、減収減益になってしまう。市場は明らかに回答を出す。自然言語LLMの生成AIよりもよほど正確に、貨幣経済というのは決断や行動に対する答えを即座に返してくれる。
怒りの原因は、思い通りにならないから
私は社長としても会長としても中小企業から大企業まで様々な会社の代表者、事業責任者を勤めてきたが経営経験のなかで一度も部下を怒ったことがない。業績は急激な勢いで増収増益した。
怒りとは自己の行動により思い通りの結果にならない時に起きる感情である。人間はダイバージェンス(予実差異)を最小化するように動こうとする。想定している結果と現実の作用が異なったときに、予実差異が発生してしまったことへの驚きとそれに伴う不安や焦燥感から起こる感情が怒りだ。予実差異が発生してしまった場合に損失関数を最小化するための対策の場合わけは二通りある。「仮説や手法が間違っていたため結果でない場合」か、「仮説や手法は合っているが必要時間や必要資本が足りていない場合」がある。
よい事業のほぼ99%は資本収益率(ROIC)は10年で通算すれば年率30%以上あるが、3年目までは営業キャッシュフローがマイナスになる。5年たって年率5%の収益率しかない場合は仮説が間違っているのでNGだが、3年目で年率5%の収益率であれば仮説はあっていて達成までの必要時間を誤っている場合もある。
3年たっても年率0%以下の収益率しかないのに時間が足りていないと判断し、事業継続する場合もあるがこれは一番最悪だ。コンコルド効果といって、埋没費用が大きすぎると、損切りするのに大きなエネルギーを要し、なかなか次に移ることができない。しかしこれは限界利益率の改善率(オペレーティングレバレッジ)をみていればすぐにわかるので対策法はある。
経営は最小作用の原理の証明問題
前置きが長くなったが、スタートアップに必要なのは適切な問いの設定とそれを社会にプロンプトとして投げ掛け続け、仮説検定によって発見された因果関係を再現性のある技術として複製することだ。時空上の1点から、目標とする時空上のもう1点に最小エネルギーで辿り着こうとするときに、予測可能性の枠外の出来事が発生した場合(つまり、思い通りにならなかった場合)損失関数を最小化するために、関数を変えるか、資源投入量を増やしたり減らしたりするということである。予測と実績の差を小さくし、モデルの精度を上げるということはダイバージェンスを最小化するとも言える。
給与を減らすと業績を達成する場合だってある
ここで面白いのが、従業員が高い報酬が欲しいと願っているから給与を増やしたものの、うまく機能せず、給与を減らすと業績を達成したりもする。つまり経営はやはり最小作用の原則の証明問題なのであると結論づけることのできるエピソードである。多くの人が今よりも高い給与が欲しいと思っているが、実際に高い給与が実現してしまうと、給与の背後にある暗黙の社会的責任がプレッシャーになり、実力を発揮できなくなる場合がある。現在提供できる付加価値と、給与がマッチしていないと社会への借金が膨らんでしまい、それを認識するしないにかかわらず適切なアウトプットが出せなくなってしまうのだ。
問いが正しく関数が間違っている場合は、同じ問いを投げかけ続け、学習により損失関数が減少し、インプットに対しての想定通りのアウトプットが出るまでモデルやアルゴリズムを改善する必要がある。学習によって判明したアルゴリズムは、常識や思い込みとは全く異なる場合も多い。モデルを改善するために事業体を拡大したり縮小したり、想像以上の試行錯誤が必要となる。スタートアップは、問いはシンプルでも、証明するために膨大なデータと計算能力を必要する質問を社会に投げ掛けるべきである。
事業は構造に可能性が内包されており、その可能性は引力によって証明される
最終消費価格はマーケットが決めるので、最終消費価格の決定権は生産者側にはないと考えたほうがよい。最終消費価格が高いか安いかはプライシングをダイナミックにかえて検証することができるが、基本的にコモディティには金、プラチナ、石油、とうもろこしなどと同じように確率の収束値である相場価格がつくものである。相場価格の検証の仮定で高いか安いかは決められるが、基本的に相場の値動きに合わせていくしかできないというのが企業側の価格設定の基本かと思う。したがって企業ができるのは情報の整理や原価構造の低減(簡単に言えばコスト削減)しかない。原価構造には企業の未来が畳み込まれている。適切な原価構造はヒトモノカネを地球中から収集する引力を持っている。引力の証明に力を注ぐためには、不要な販管費、不要な資本などのノイズを排除する必要があるのだ。
研究開発は問いの設定の時点で帰結が確定している
スタートアップは研究開発である。研究開発とは、Luckiest Possible Guesserである。もっともラッキーな結果だけを手に入れるのが研究開発の目的である。同時並行で初めても、ほんの一握りの人しか勝つことができず、1%の組織が99%の利益を独占する。
歴史上の人物にはなぜこんなことができたのかというくらい大きな成果を生み出す偉人が存在する。原子力発電や爆弾をなぜつくることができたのか?
歴史を遡ってみると、メンデレーエフが1869年に元素の周期律を発見したときに、ウランやプルトニウムを燃料としたエネルギー生成方法が1940年代に確立されることは推定できた。人間は原始時代から栄養素の高い食べ物を探し求め、農業や畜産で再生産している。これは人間の自然の活動である。つまり、生命体は、持ち運びできる高エネルギー体を好む。この原理をベースとすれば、周期表を発見した時点で「地球上で安定して存在し、電荷が高くエネルギーが高いながらも、合成、分離、制御に相対的にコストがかからない条件の持ち運びしやすい化合物」を人間が探し始めることとなり地球上では結果的にウランやプルトニウムになった。超ウラン物質が安定的に存在できないという地球の質量を前提とすると、小分けして持ち運びできる最大効率の高エネルギー体をさがすと地球上ではウランとなる。仮にもっと重力の強い恒星に知的生命体がいるとしたら持ち運びできる高エネルギー体の候補としてはアメリシウム、キュリウムなどの超ウラン物質になる可能性もある。
「炭素化合物で構成された生命体は持ち運び可能な制御効率と出力の高いエネルギー体を探し求める」というのはもはや宇宙の真理である可能性もある。
質量とはエネルギーでありそれは重力や引力とも関係するものであることから、人間そのものが本来的に持っている「エネルギー体を探す」という習性を暗黙の前提とすれば、やはりスタートアップにおいてはオーガニックグロース(皆が新たなエネルギーに集まってくる)が自然な形であり、純粋なエネルギーインフロー、エネルギーアウトフローを観察するために、モデル以外のノイズになりうる不確定要素は排除すべきであると結論づけられる。
人類はエネルギーを暗号でコントロールしている
人間はプログラミング言語が生まれるずいぶん前から自然言語、工芸品、音楽などの何らかの規則性を持った記号(コード)によってエネルギーのインフローとアウトフローを扱っている。文字は時間と空間を超えて人やものに影響を与える。その観点で、文字はタイムマシンのようなものであるし、特定の現象を記述して再現するための暗号復号システムであると考えられる。文字に影響力があるから法が影響力をもち、法の元でつくられた国家や企業に価値が生まれ、不動産や財やサービスを通貨で交換できる。
自然言語は人がもっとも使いなれた暗号のひとつ
会社を規定するのも文字を含むあらゆる意味と復号関数を持った暗号であり、人間が古来から使いなれている日本語などの自然言語のほうがより歴史の基盤となっているため、ソフトウェアやハードウェアの制御で用いられているプログラミング言語よりも自然言語の方がより原始的で、力の波及効果が高いのではないかという仮説をもっている。
人類の経済活動の前提定義
自然界におけるエネルギー源は重力、電磁波、強い核力、弱い核力、運動エネルギー、熱エネルギーなどであり、地球のような惑星系は恒星エネルギーの配下にある。動かせぬ前提として地球の質量が恒星の影響下にあり、銀河系の影響下、ブラックホールなどの超質量星の影響下にある以上、人類の活動は恒星以上のエネルギー源が時間の巡行のなかでエントロピーを増大させていくプロセスのなかで、一部エントロピーが減少(時間が逆行)する領域をつくっていると定義できる。
より上位の法則が生み出される学習環境を設定する
TANAAKKでは一見相互に関係がなさそうな産業の事業を同時に進めることで、グループ全体の投資収益率を高めている。例えば、製造業、レンタカー、建設業、不動産業、保育事業、ソフトウェア開発、ソーシャルメディアなどの事業を同時に進めており、どの事業もハイパーグロースを実現している。また、日本だけではなく、アジア、北米、ヨーロッパでも同様に通用する思想を設計するために、まだ売上がでる前から世界の主要都市にグローバル拠点を設置している。15世紀までの天動説は地球上のものの動きだけを観察していればその結論になるだろうが、星という外部者を地球上のものの動きと同時に説明するためには地動説が必要となってくる。さらに太陽系を超えた星たちの動きの法則を説明しようとすると、太陽系は恒星系の部分集合であることがわかり、さらに恒星系は銀河系の部分集合であることがわかる。これを元にすると地球が所属している宇宙もメタバースという複数の宇宙系の一つではないかと連想するが、本当にそうであるかは規模により対称性の破れが生じることのある自然界のシステムからすると、証拠が観測できていない以上、メタバースがあることもないことも決めることができない。より上位の法則を掴んでしまった人たちは、容易により下位の法則しか掴んでいない人たちにあらゆる面で優位に立ってしまう。
「より上位の法則を知らずに、上位の相手と戦う不利な状況」を避ける
小学生のサッカークラブが中学生のサッカークラブには勝てないのと同じで、どう考えても勝てないという戦いは、まず始めるべきではない。TANAAKKでは創業当初から、「より上位の法則を知らずに、上位の相手と戦う不利な状況」を避けるために、「多くの産業、多くの文化圏、多くの国」を活動対象とし、また想像力を尽くして、「他の惑星、他の恒星、他の銀河、他の宇宙環境」でも成り立つような普遍的な自然現象の解読を事業の制約条件として設定し、時代を超えて再生産され生き残る事業活動主体=法人の前提条件としている。
言語を扱う知的生命体は宇宙空間における特殊環境を産み出している
時間、空間、エネルギーという自然界の現象の振る舞いを、記号の形で記述し、損失関数の小さい、予測可能性の高いインプットアウトプットを実現できる特殊な環境を宇宙空間において実現しているのが人類を含む知的生命体といえるのだろう。
スタートアップとイノベーションの暗黙の制約条件
この暗黙の自然界の条件を前提としたときにスタートアップがとるべき活動にはおのずと制約条件が課され、制約条件を明確にすることにより投じたエネルギーのインプットに対しての予測可能なアウトプットが実現できる。イノベーション(=資本収益率と営業キャッシュフローを増加させるという貨幣経済上の至上目的)は、再現可能な技術であるということになる。
その事業は地球以外の惑星でも成り立つか?
科学は様々な環境における再現性を検証するものであるから、地球以外のハビタブルゾーンにおいて、人類以外の知的生命体がいた場合にも、その星が核融合を終えたあとの鉄ベースの惑星で、水を用いるのであれば、炭素化合物をベースとした生命体である可能性が高く、生物の自然淘汰により社会的生物、言語表現を獲得した類が頂点捕食者になると推定される。その頂点捕食者が地球とにたような国家、企業、産業を生んだとき、何が必需産業なのか?エネルギーの交換媒体、トークンとしてやはり貨幣経済に近い仕組みが生まれるのではないかと思う。この思考実験は経営をより洗練させ、産業のアップダウンによる確率の収束値を見極めるために役に立つ。
スタートアップの問いの純粋性と、ノイズの排除について
以上長い文章であったが、スタートアップの問いをより純粋にすればするほど、Controllability(制御可能性)、Convertibility(代替可能性)、Consumabilitiy(消費可能性)のようなモジュラー的概念が増えていく。このような純粋な問いについて、公理となるモデルを探していく際には、局所的には答えのように見える回答を捨てていく必要がある。短期的には利益になるように見える現象が、長期的にはノイズになる。標準モデルを作ろうとする時、部分最適な回答は普遍的な理論にとって例外現象となりノイズとなる。ノイズは体と時間空間的に近いところにあるため、ノイズを超えてより遠いところに回答を取りに行くのは選び取る力(捨てる力)と大局的な忍耐力を要するだろう。